夢小説二

□君の声
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沖田さんの労咳が進行しているのはわかっていた。
苦しそうに咳き込んで、血を吐いて…。
私の前では強気で、いつも通り傲慢な態度で隠していたが、体力の消耗が激しいのか、部屋にこもる事が多くなっていた。

「……すみません…」

私は山崎さんに深く頭を下げた。
ただ、謝ることしか出来なかった。

あの夜の事があってから…、何故か私の頭から沖田さんのことが離れなくなってしまった。
私の気持ちなどお構いなしに無理やり身体を奪われ、心までも傷付けられたのに、あの寂しげな眼を想い出してしまい、胸が痛くなった。
沖田さんのことを思うと胸が締め付けられるように苦しくて…。
気が付けば斎藤さんではなく、沖田さんの事ばかり考えていた。

あれから、斎藤さんは御陵衛士として新撰組を離れてしまい、会うことすら出来なくなってしまった。
今、こんな中途半端な気持ちで、沖田さんに会う訳にはいかないのだ…。




屯所から斎藤さんが居なくなって、私はとても心許なくなった。

この不安な気持ちを誰に話せばいいのだろう…。
いや、仮に斎藤さんが今ここに居たとしても、何を話すというのだろう。
「沖田さんが私のことを好きだと言うのだが、どうしたらいいか」とでも、相談するのか。
そもそも斎藤さんに私の気持ちを打ち明けたわけではなく、斎藤さんの返事を聞いたわけでもない。
私が一方的に想いを寄せているだけかもしれないのに、沖田さんのことを言ったって、いい迷惑だ。

そんなことを堂々巡りで考えながら歩いていたら、いつの間にか周りの景色が見たこともない町並みに変わっていた。

(―――――――どうしよう…。)

近藤さんに頼まれてお使いに出たのに、迷子になったなんて洒落にもならない。
足元ばかり見て歩いてきたから、どちらが屯所の方角かすらも分からなくなっていた。

踵を返して、今来た方向に歩いてみるが、果たしてそれが本当に“来た道”なのか、それすらも不安になった。
…帰るべきところもわからないなんて、まるで今の私の心のようだと思いながら、子供のように目に涙を浮かべ、雑踏のなか立ち尽くしていた。

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