夢小説一
□修羅
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漆黒の空に薄桃色の桜の花弁が舞っていた。
春の嵐とでもいうのだろうか、生暖かい風の強い夜だった。
今日は三番組が夜の巡察にあたる。
出発する隊士達が門の所へ集まり整列する中、千鶴は心配そうに斎藤一を見送っていた。
仕事とはいえ、治安が悪い夜の町へ送り出すのは、千鶴にとって精神的に辛いものだった。
特に死番の時は、無事帰ってくるまでは眠れないほど、斎藤の身を案じていた。
斎藤もそんな千鶴に想いを寄せており、言葉には出さなくとも、互いを思いやる気持ちは通じ合っていた。
「では、行ってくる。」
祈るように掌を合わせて見送る千鶴を、屯所を出発する斎藤が振り返る。
僅かの間だったが、二人の視線はしっかりと交わっていた。
そんな様子を屯所の中から、殺気とも取れるほどの壮絶な気配を殺して、じっと見詰める影があった。
沖田総司だった。
総司は千鶴に想いを寄せており、強引に肉体関係を結んでいたが、身体は交われども千鶴の心はいつもどこか他の誰かの元にあるのを感じていた。
それが斎藤だと分かった総司は、嫉妬に駆られ、斎藤が留守の夜を狙って千鶴を懲らしめる事にした。
夕飯にも顔を出さなかった総司の部屋に、千鶴はおにぎりと薬を運んで行った。
「沖田さん、食事をお持ちしました。」
声を掛けるが、総司から返答が無い。
眠ってしまったのかと、部屋の前に盆を置いて去ろうと後ろを向いた瞬間、急に部屋の障子が開き、腕を掴まれ中に引きずり込まれた。
「――ッ!」
千鶴は突然の事に驚き悲鳴を上げそうになったが、総司に後ろから羽交い絞めにされ、口を塞がれて声を出す事も出来ない。
「助けを呼ぶ?―――――無駄だよ。僕の具合が悪くなってから、隔離されたみたいに、だぁれも僕の部屋まで来ない。
…それに、誰かさんは巡察中。今頃市中を回ってるよ。」
千鶴は驚愕した。総司は、千鶴が密かに斎藤に想いを寄せていることを察知していたのだ。
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