夢小説一
□夢現
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―――――あれから…揚屋での一件以来、左之助さんのことが気になってしまい、寝ても覚めても、一時も頭から離れない。
左之助さんの大きな手。
ゴツゴツして硬いけれど、私の頭を撫でる手はとても優しかった…。
私の頬に触れ、唇に触れる指先…切れ長の黄玉色の瞳。
思い出すだけで、身体が熱くなってしまう…。
「―――千鶴、おはよう。」
「きゃっ…!」
左之助さんの事をぼぅ、と考えながら洗濯をしていた私は、急に声を掛けられ、吃驚して飛び上がってしまった。
後ろに左之助さんが立っていた。
「あ…原田さん…。」
あの日以来、左之助さんの事を考えただけで顔が赤くなってしまい、まともに顔を見ることも出来ず、いつも通りにしようと思っても私の心は空回りして、紡ぐ言葉を失ってしまう。
そんな私の気持ちとは裏腹に、左之助さんはまるで何事もなかったかのように、いつも通りに見えた。
もしかして、あれは夢だったのではないかと錯覚してしまうほど、左之助さんの態度は以前と変わりなく…それが逆に私を不安にさせた。
あの日は左之助さんも酔っていたから、忘れてしまったのではないか…。
それとも、私が一方的に想いを寄せているだけで、あれだけもてる人なのだから、左之助さんにとっては一夜の過ちだったのではないか…と、考えれば考えるほど自分が情けなくなってしまった。
「…おかしなやつだなぁ。」
私が俯いて沈黙していると、左之助さんは私の頭をくしゃくしゃ、と撫でて行ってしまった。
盥の水が冷たかった…。
洗濯物を干しながら仰ぎ見た弥生の空は、哀しいくらいに青く澄んでいた。
「―――よ!千鶴ちゃん!」
永倉さんの軽快な声が聞えた。
「なぁに、しけたツラしてんだよ。」
「…いえ、何でもないです…。」