夢小説一

□夢の続き・・・
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 赤い壁に、色彩豊かな模様と金の装飾が施された屏風。
白粉の匂いと香の甘い香りが、薄暗い室内に立ち込めている。

ここは島原、揚屋の一室。
今まさに開花したばかりの一輪の芍薬のような、瑞々しくも儚げな芸子に、原田左之助は酌を受けていた。

左之助が差し出した盃に、ぎこちない様子で徳利を傾けお酒を注ぐ女…千鶴を、左之助はじっと見詰めていた。
赤味のさした目蓋、伏し目がちな瞳が何とも色っぽく、つい目が離せなくなっていた。

慣れない芸子の着物を着て、揚屋に潜入している千鶴を案じ、近藤が永倉、藤堂と共に左之助を引き連れて、景気付けに来てくれたのだ。
近藤の驕りということで、永倉は酒を煽り、藤堂は様子がおかしくなってしまったので、近藤は先に二人を連れて屯所へと帰ってしまった。

千鶴の元に一人残された左之助。
男が酒を飲み、女を抱く…そんな場所に二人きりになってしまい、お互いに意識して会話が途切れてしまう。

「・・・・・・。」

先ほどからずっと酒を飲んでいるのに、左之助は一向に酔う気がしなかった。
徳利を取り、千鶴に勧めると、少しだけ…といって酌を受け、おずおずと酒を飲んだ。
いつも「飲めない」というだけあって、一口飲んだだけで千鶴の頬が赤く染まった。

「…すみません、私のことを気遣って残ってくれたんですね。」

少しの間、盃の中で揺れる水面を見詰めた後、ぽつりとつぶやいた。

「まぁ……それだけじゃねぇんだけどな…。」

左之助は顔を上げ、再び千鶴へと視線を向けた。
お酒で艶っぽさを増した潤んだ瞳に、行灯の灯りが映り煌く様子に、思わず吸い込まれそうになる。

不意に左之助の大きな手が千鶴の頬に添えられ、顔を寄せた。

「……千鶴…。」

「あ、あのっ……」

真っ直ぐな視線に捕らえられ、恥ずかしさのあまり、千鶴は慌てて何かを言おうと口を開いたが、陸に上がった魚のように
口をパクパクするだけで、言葉を紡ぐ術をなくしたかのように、左之助を見詰めた。

「…そんな顔、するなよ…。―――――我慢できなくなっちまう…。」
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