夢小説一

□夢見月
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 昨晩のうちに家の周りに降り積もった雪が、月の光に照らされ、きらきらと幻想的な輝きを見せている。

まだ雪深い早春の北国。
囲炉裏に火をくべ、私は夫 斎藤一の帰りを待っていた。

「今日は雑務だけだから、夕刻には戻る…って言ってたのに・・・」

雪が積もっていようと、相変わらず薄着で出掛け、帰るころにはすっかり冷え切っている一さんの身体が少しでも暖まるようにと、
根菜の沢山入ったけんちん汁を作ったのに、すっかりくたくたに煮詰まってしまった。

食事の支度はこのくらいにして、縫い物でもしようかと炉端に腰掛けたその時、家の外から何やら楽しげな声が聞こえてきた。

「――今帰った。」

いつものように、淡々と帰宅を告げる夫の背後から、それとは全く対照的な、飄々とした男が顔を出した。

「よっ!千鶴ちゃん!久しぶり!!」

にかっと白い歯を見せて笑う、がっしりと背の高い男…永倉新八だった。

普段は全くといっていいほど、仕事や個人の付き合いなど家に持ち込まない一さんが、珍しくお客を家に連れて帰ってきたのだ。

懐かしい、新選組の仲間。
あの戦いで、失ったものも多いけれど、こうして再び会える仲間も居る。
時代の移り変わりと共に変わるものもあれば、変わらないものもある―――
変わらないものをこそ、信じている…という一さんにとって、新選組の仲間というのは、特別な存在なのだろう。



「――帰る途中、晩酌の酒を買おうと寄った酒屋で、偶然会ったのでな。」

一さんは黒い羽織を脱ぎながら、ちらっと永倉さんの方に目を遣った。

「なんだよぉ〜!俺はわざわざ、お前と千鶴ちゃんの結婚を祝いに、こうして遥々訪ねて来てやったんじゃないかよ〜!!」

相変わらず無表情の一さんとは対照的に、全開の笑顔で応える永倉さん。
私は囲炉裏を囲うように腰を下ろした、永倉さんと一さんにお酒を用意した。

「―――しっかし、なんだここは?!雪ばっかりで、迷っちまったぜ!」

「…迷った挙句に、酒屋に居るのだから、大したものだ。」
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