夢小説二
□狐狸
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「……ぁあ…ん…っ」
真っ昼間だというのに、屯所内に千鶴の喘ぎ声が洩れ聞こえている。
それは沖田の部屋からだったり、千鶴の部屋からだったり、時には裏庭の蔵の中からだったり…と場所は変われど、決まって沖田が千鶴にちょっかいを出し、二人でいそいそと何処かへ消えたかと思うと聞こえてくるのだ。
男女が交わり、男にありとあらゆる粘膜を捏ね回される時に女の口唇から洩れる、淫靡な甘い声が…。
最初は空耳かと思うほど小さな声は次第に大きくなり、忙しなくなる嬌声は一際大きな悲鳴となった後、ぴたりと止むのだ。
毎日のように…昼夜を問わず始まるそれに、斎藤は普段以上に無口になり刀の手入れを始め、原田は苦笑いし、永倉と藤堂はニヤリと顔を見合わせては声のする方へ足音を忍ばせて走っていくのだ。
近藤は聞こえないフリをし、その声を書き消そうとするかのように、隊士達を庭に集めて稽古を始めたりもした。
事が終わり沖田と千鶴が部屋から出てくると、スッキリとした顔の沖田とは対照的に、そこに居合わせた全員が気まずい顔をして、蜘蛛の子を散らすようにそそくさと席をたった。
沖田には甘い近藤が何も言えないでいるのを見兼ね、土方が口を開いた。
「――――おい、総司!…てめぇ、さかりのついた猫じゃあるめぇし、昼日中から女連れ込むんじゃねぇ!」
「…じゃあ、夜ならいいんですか?」
相変わらずの飄々とした態度で、沖田は土方の注意をかわしてしまう。
「そういう問題じゃねぇ!ここにはやりたい盛りの野郎どもが悶々と暮らしてんだ。
てめぇばかり、やりたい放題してんじゃねぇ、っていってんだ。………少しは声抑えさせろ」
「……抑えさせろ――って、千鶴ちゃんに猿轡でも咬ませろっていうんですか?
まったく、鬼の土方さんじゃないんですから、酷いこと言うなぁ!」
土方の眉間に入った縦皺がますます深くなる。
「誰が鬼だ!……声が抑えられねぇってんなら、ちったぁヤるのを我慢しろ」
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