夢小説二
□初心
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唇と唇が触れる寸前、躊躇うように斎藤さんの動きが止まった。
目の前にある端正な顔は行灯の朧なあかりに照らされて、まるで斎藤さんの心を映し出しているかのように、時折影が揺れた。
「……俺で…いいのか?」
私を見詰める深縹の瞳が不安気に揺れている。
私を抱く二つの腕はとても優しく、合わせた掌を通して斎藤さんの温もりが伝わってくる。
忙しなく聞こえる胸の鼓動は、私の…それとも斎藤さんのものだろうか。
微かに震える指先も、重なる身体の重みも、すこし汗の混じった匂いも……全てが愛おしい。
この人とひとつになりたい…。
「…斎藤さんじゃなきゃ…、だめです…」
「…千鶴…」
心の奥を確かめるように真っ直ぐな瞳が私をとらえ、目を伏せると柔らかな唇がそっと重なった……。
END
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