夢小説二

□鬼灯
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 長かった梅雨もあけ、日中は屯所に居ても賑やかな蝉の声が聞こえるようになった夏のある日。

私は左之助さんと永倉さんに近くの寺で行われているお祭りに連れて行ってもらうことになった。

「オレが付いてるから大丈夫!」という永倉さんの押しの一手で近藤さんと土方さんの許可を貰い、懇意にしているお店で左之助さんが用意してくれた可愛らしい浴衣まで着せてもらった。

西の空が茜色に染まる頃、私は左之助さんと永倉さんの間に挟まれるようにして手を繋ぎ、引っ張られるようにして出掛けた。

ひぐらしのどこか寂しげな鳴き声に、カランコロン…という私の下駄の足音が軽快に重なる。

夕焼けと入れ替わるようにともる提灯の灯り。
町中から境内へと続く提灯の灯りに吸い寄せられるように、私たちは歩いていった。


その祭りは「鬼灯(ほおずき)祭り」といわれるだけあって、あちこちの出店で鬼灯が売られていた。
朱色の紙風船の様な可愛らしい実を眺めていると、

「こういう可愛いものに目が行くなんて、やっぱり女子だな」

「鬼灯を水で鵜呑みにすると、大人は癪を切り、子どもは虫の気を去る…っていうからな。これを屯所の庭に植えりゃぁ、何かの役に立つだろうよ」

などといいながら左之助さんと永倉さんが鬼灯を一鉢買ってくれた。



境内は沢山の人でごった返し、左之助さんと永倉さんの手をしっかり握っていないと、背の低い私は人の波に埋もれて迷子になってしまいそうだ。

夜祭の開始と共に景気付けで行われた鏡抜きのお酒が振る舞われると、お祝いだからと永倉さんが嬉しそうに飲み始めた。
顔見知りの人たちもいたらしく、永倉さんが楽しそうに飲んでいる間に、左之助さんがそっと私の腕を引いた。

「…左之助さん…?」

「いいから…」

永倉さんの目を盗むように振り返った左之助さんは、私の手をぎゅっと握り締めて境内脇の林の方へと向かった。

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