夢小説二

□微睡
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 東京に出てきて数ヵ月。

警視官になった一さんは、日々激務に追われていた。

「…遅いね…、一さん」

私は独り言のように猫に話しかけながら、一さんの帰りを待っていた。
朝も早くから出て行って、こんなに遅い時間まで…。

弱音や愚痴を吐かない一さんだが、毎日ろくに口もきけないほど疲れ切った様子で帰ってくると、掛ける言葉もなかった。

せめて、少しでも疲れが取れるように…と、熱いお風呂と旬のものを取り入れた夕食を用意して、一さんの帰りを待った。

玄関の引き戸が開く音がしたと思うと、愛猫がそちらへ向かって駆け出した。

「―――――今帰った」

「お疲れ様でした」

今日もやはり相当に疲れているらしく、やっと帰ってきたご主人様の足元に擦り寄る猫を、一さんは無言で抱き上げた。





お風呂からあがり夕食を食べ終わると、一さんは寛ぎながら愛猫を撫でていた。

穏やかな微笑み。
普段は険しい顔をして働いているけれど、こうして猫と戯れている時間が一番幸せなのかな…。

私は一さんに撫でられてうっとりしている猫が羨ましくなって、そっと一さんの傍に寄った。
寝転がって、胡座をかいた一さんの膝の上に頭を乗せると、一さんが苦笑した。

「…どうした?」

「…眠くなっちゃいました」

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