夢小説二

□蜉蝣
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 提灯の灯りが、ほの暗く辺りを照らしている。

赤黄色の朧気なひかりはさして明るくもなく、闇の中で傍にあるものだけを曖昧に照らしていた。
近くまで寄らなければ人の顔すらも判別が出来ぬほど脆弱な灯りのもと、すべての影は朧に揺れ、蜉蝣のように現れてはまたいつのまにか消えていった。

そんな提灯の灯りが幾つも並び、その灯りに吸い寄せられるかのように、人々が夜な夜な集う場所…。

屯所のそばの神社で行われている夜祭に私はいた。

近藤さんが素敵な浴衣まて用意してくれて、「たまにはゆっくり羽を伸ばしておいで」と送り出してくれたのだが、一人で行くお祭りは淋しい。
祭り好きな永倉さんや原田さんは隊務で出掛けてしまっているし、斎藤さんは祭り嫌い、沖田さんは体調がすぐれず、まさか土方さんをお誘いする訳にもいかず…。

かといって、浴衣まで用意してくれた近藤さんの好意を無下にも出来ず、私はこうして 一人、沢山の人で賑わう境内を歩いていた。

赤黄色の灯りに照らし出された幻想的な空間に、食べ物や玩具の夜店が軒を連ねて、皆楽しそうに笑っている。

ふと横を見ると、お父さんに連れられて歩く小さな女の子がいた。
私も幼い頃、父様に縁日に連れて行ってもらい、飴細工で作って貰った可愛らしい兎を落としてしまっては大泣きして、父様を困らせたこと…。
ついこの間の事の様でもあり、また遥か遠い昔の事の様にも感じられた。

「…父様…」

胸が締め付けられるような想いに、私は目を伏せた。

「だーれだ?」

突然、背後から手で目を覆われ、私は驚愕した。
咄嗟に身を捩ろうとすると、別の手が前から私の腕を掴んだ。

「きゃっ!やめてください…!」

目隠しをしていた手が放され目を開けると、見知らぬ男二人が私を挟んで立っていた。

「君、可愛いねぇ。一人?…オレたちと遊ばない?」

「…え?ちょ…ちょっと…、なんですか?」

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