夢小説二
□淫雨
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ジメジメと蒸し暑い日だった。
ちょっと歩いただけで、額やこめかみに浮き出た汗が、つぅ、と頬を流れ落ちる。
何でこんな日に市中を回らなきゃならないんだろう。
歩きながらふと横を向くと、通りの向こうの大店の前を奉公人が打ち水をしているのが見える。
ちょっと水を撒いたくらいで、涼しくなんかなるものか。
あんなものに何の意味があるんだろう。
せめて一雨降れば、少しは涼しくなるのに…。
今日は一番組が巡察の番だ。
千鶴ちゃんが巡察に同行するのはもう当たり前のようになっていて、僕の後ろを千鶴ちゃんがついて歩いていた。
「…それで、原田さんが―――――」
千鶴ちゃんが、嬉しそうに左之さんの話をする。
そんなに左之さんが好きなら、僕と一緒になんて来ないで、屯所で左之さんに可愛がってもらえばよかったのに。
僕は千鶴ちゃんの笑顔を見る度に苛っとした。
帰り道、雨が降ってきた。
「――――用事を思いだしたから、先に帰ってて」
羽織を脱いで他の隊士たちを先に帰すと、一緒に行こうとする千鶴ちゃんの腕を捕んで引き留めた。
「…君はこっち」
戸惑う千鶴ちゃんを人気のない路地裏に連れていく。
左之さんの事なんて考えられないくらい、めちゃくちゃにしてやりたい…。
「―――――沖田さん…?」
僕を見詰める千鶴ちゃんの瞳が揺れている。
僕が近寄ると千鶴ちゃんは一歩後退り、また一歩近付くと一歩引いて…、気が付くと千鶴ちゃんの背中が塀にあたった。
袋小路だ。
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