夢小説二
□雨
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―――――――雨が降っていた。
足元から上に向かって降っているんじゃないかと思うほど、激しく打ち付ける雨が地面で跳ね返る。
私は傘をさしているのにもかかわらず、いつの間にか全身ずぶ濡れになっていた。
私は、旅館の前で立ち尽くした。
幕府の偉い方と会合をしている土方さんを迎えに来たのに、こんな格好では店にも上がれない…。
でもきっと、もうじき土方さんが会合を終えて出てくる…。
そう信じて、私は雨の中、土方さんに渡す傘を握り締めて、立っていた。
傘を持たずに、手拭で頭を覆って走って行く人。
荷物を頭の上に掲げて、近くの店に駆け込む人。
傘をさして楽しそうに歩いて行く親子。
いろんな人が、私の前を通りすぎていった…。
一刻ほど過ぎただろうか。
店から恰幅のいい人たちが、何人も出てきた。
するとすぐに迎えの籠がやって来て、その人たちがいなくなったあと、土方さんが出てきた。
―――――――よかった…。
「…土方さん…」
土方さんの顔を見て安堵した途端、私の体は鉛のように重くなり、地面が近くに見えた。
「―――――――おい、千鶴…!」
土方さんの声が、遠くで聞こえた…。
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