小説(海賊)

□Sexy Foxy
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今日も相変わらずにぎやかな船上。

「見ろ!割れ頭の真似。フェーフェッフェッフェ」

「ぎゃはははは!ルフィそっくりだ!」

「何してんの?あんたたち」

「おうナミ!お前もコレつけてみろ!」

「なに、ちょっと…やめてよ!これフォクシー海賊団のマスクと耳じゃない!チョッパーまだ持ってたの!?」

「捨てるの忘れてたんだ。男部屋に置きっぱなしだったのをさっきルフィが見つけてきたんだ」

「んナァミすわぁ〜ん、ロビンちゅわぁ〜ん!紅茶をお持ちしました〜!」

「あ、サンジ君。ちょっとコレつけてみて」

「はい?」

「あ、似合う似合うー(笑)サンジ君が一番似合うわよ、そのマスクと黒耳」

「本当だ。サンジ似合ってるぞ!」

「あー?これってDBFの時の…まだあったのかよ」

「サンジ!割れ頭の真似しろ!」

「誰がやるか!クソゴム!」

にぎわしい声に船のすみで昼寝をしていた剣士が目を覚ました。

寝呆け眼の先には黒いマスクとトンガリ耳をつけたコックの姿。
丸い金髪頭と、黒スーツにやけにマッチしている。
あまりの違和感のなさに剣士は思わず目をしばたいた。

そして次の瞬間には、あのマスクと耳をつけたままのあられもないコックの姿が鮮烈に脳裏に浮かんだ。

そんなとんでもない妄想を瞬時に抱くエロ親父でも、生まれつきの仏頂面がうまくカバーしてくれているので、彼の隠れた変態気質に気付くものは誰もいない。

(よし。今夜アレをつけたコックをヤろう)

コック「と」ヤろうではなく、コック「を」ヤろうというあたり、ハナから相手の意向を無視した自分本位のケダモノである。

そんな魔獣のギラついた視線に気付くことなく、すでにマスクと耳をはずしたコックは満面の笑みで女性陣に紅茶をついでいた。



その夜。
こっそりマスクと耳をポケットに忍ばせて、剣士はまだ明かりの灯るキッチンへと向かった。
そこにはいつものように翌日の仕込みをするコックの姿。

風呂あがりらしく、まだ濡れた髪と黒のスラックスに胸元まではだけた白いシャツを一枚着ているだけの姿がなんとも色っぽい。

剣士の欲望が一段と膨れ上がる。

「おう、どうした?酒でもとりに来たか。生憎今切らしちまってる。料理酒でも飲んどくか?」

冗談を言ってコックがいたずらっぽく笑う。醸し出す色気とは正反対の無邪気な笑顔。

「いや、酒はいい…」

そう言ったゾロにコックは不思議そうな顔をする。

「いいのか?飲んだくれのマリモ剣士のくせに珍しいな。まぁどっちみち飲ます酒もないんだけどよ。何か他に用か?」

そう問われて剣士は一体どう切り出そうか悩んだ。衝動の赴くままにやってきたはいいが、目の前の獲物があまりに無邪気な瞳で自分を見るので飛び掛かるタイミングを逃してしまった。

(いきなりバカ正直に要求したら蹴り殺されそうだしな…)

このコック、めんどくさいことに女のようにやたらムードとかそういうものにうるさく、即物的な関係を嫌う。

一方剣士は本能の赴くままに生きているので、獲物を目の前にしてまどろっこしいことはしていられない。
食いたきゃ食う。ヤりたきゃヤる。実に動物的だ。

(さてどうするか…)

剣士は心の中でうーんと首をひねった。

一方コックは、扉の前につったったまま凶悪な面で自分を睨み付けて何かを考えているらしい剣士に不審感を覚えていた。

(一体なんだっつうんだコイツ…)

寝ぐされ剣士がこんな夜更けに酒目的以外でキッチンに来るなんて珍しい。

(まさかオレと二人きりになりたかっただけとか?だとしたら意外に可愛いとこあんじゃねぇか)

そんなことをふと考えてコックは顔がゆるみそうになるのをこらえた。
ケダモノ剣士に比べて意外にもコックの思考は非常に純粋だった。

『二人きりになりたい』それは決して間違ってはいないが、剣士の望みはもっと下心に満ちている。

そうとも知らず、コックはシンクにもたれ、にやけそうな口元を手で覆い隠すようにタバコを加え火を点ける。

流れるような仕草に目を奪われながら、ゾロは昼間のやりとりの中で考古学者が言っていたセリフを思い出していた。

『妖艶な美しい女性のことを狐に例えてFoxと言うそうよ』

『妖艶』とまではいかないかもしれないが、目の前にいるアホコックは時折匂うような色気を放つ時がある。

白い肌、細い肢体、紫煙を吐く薄い唇、綺麗な金糸の間からのぞく、けだるげな青い瞳。

女にメロリンしている時や年少組とバカやっている時とはまるで別人のようだ。

一切の無駄が省かれた豹のようにしなやかな体。特に長い足から続く細い腰のラインがたまらない。

黙っていれば綺麗な顔をしているし、奇妙な眉毛を差し引いてもこれだけの容姿、本来なら女も男もほっとかないはずだ。
なのにそれほど報われていないように見えるのは過剰な女性サービスと、男性差別によるものかもしれない。

口が悪くて足癖も悪い。おまけにひねくれもので意地っ張り。
おかげでコックが自分にいちいち喧嘩を吹っかけてくるのが実は好意からだと気付くのにかなりの時間を要した。

まぁ気づいてしまえばこれほどわかりやすい奴もいないと思うが…。今ではすっかりその性格もコックの魅力の一つになった。

だからこそ折角手に入れたコイツを誰かにとられるわけにはいかない。もっと自分のものだと主張したい。

二人は付き合ってはいるがせいぜいキスどまり。コックはまだその先に進むには抵抗があるようで、ゾロは長いことお預け状態を食らっている。
元々動物的で気の長いほうではない。いい加減我慢の限界だ。

そこへ来て昼間のいかがわしい(?)マスクと黒耳姿を見て、衝動は爆発。ついに決行に至った。

ゾロは無言でサンジに近づく。青い目が不思議そうに見つめてくる。

ズボンのポケットから例の物を取り出すと無造作にコックに取り付ける。

少しずれた耳とマスクをつけたコックがきょとんと目を丸くしている。

「…で?何のつもりだマリモくん。何でてめぇがこれを持ってんだよ。そして何故オレにつける?」

「昼間、近くでちゃんと見れなかったからな」

「…見たかったのかよ」

コックが少し赤らんだ。

「やっぱ似合うな。ナミより似合ってるぞ」

「そう言われても別に嬉しかねーよ。てかコレつけるためにわざわざ来たのか?」

「…まあな」

「なんだそりゃ。変な奴」

そう言ってコックは呆れたように笑った。それがとても可愛らしかった。

思わず吸い寄せられるようにして唇を重ねていた。細い体を抱き寄せると、コックはおとなしく身を任せている。

(これはいけるんじゃねーか?)

ゾロの胸に希望が湧いた。おとなしくしていることをいいことに口付けを深くしていく。

そのまま手を滑らせて、シャツの中に潜り込ませた途端に凶器の膝を腹にくらった。

「ぐぅっ…!」

「てんめぇ!どこ触ってんだエロ剣士!セクハラで訴えんぞ!」

「…!なんでだよ!付き合ってんだから触ったっていいだろうが!キスだってしてるんだしよ!いい加減にやらせろ!」

ついに本音をぶちまけた。それを聞いたコックは顔を真っ赤にして目を泳がす。

「そ、それとこれとは話が別だ…」

「何が別なんだよ。付き合ってキスもして、あとやることは決まってんだろうが」

「バカ野郎!そりゃ男女だったら何の問題もねえがオレらはどっちも男だぞ!?」

「それがどうしたよ。今更何だってんだ。別に男同士だってやれるじゃねぇか」

「…その場合どっちが下になるんだよ」

「お前に決まってんだろ」

「勝手に決めんなボケェ!オレは男だぞ!そう簡単にほられてたまるか!」

「だったらてめぇが上やんのか!?」

すると急にコックが黙り込んだ。しばしの沈黙が流れたが、その間にコックの顔が奇妙に歪んでいった。

「…それもヤダ。とてもじゃないけどお前に突っ込む気にはなれねぇ…」

げんなりとした様子で吐き捨てる。

「だったらいいじゃねぇか!オレはてめぇに突っ込みてえんだからよ!」

「やーめーろー!オレは別にそういうつもりで付き合ったわけじゃねぇんだ!」

「だったらどういうつもりで付き合ったんだよ」

「オレは…別にお前となら一緒にいれるだけでもいいと思ったんだ…」

女性至上主義の自分がまさかまさかの男に恋をした。それだけなら不毛な片思いですんだのに、まさかまさかの両思い。なんだかんだで恋人同士に。

この予想だにしなかった特殊な状況を、サンジはサンジなりに受け入れようと必死だった。

ゾロは好きだ。でも肉体関係までは望んでいない。だって自分は男だしプライドもある。
元々叶うはずもないと思っていた恋が成就しただけ奇跡なのだ。だったらそばにいられるだけで十分満足だった。

「オレは満足できねぇ。早くお前を全部オレのものにしたいし、好きな奴がそばにいるのに抱けないなんて耐えられねぇ。拷問かよ」

不満をあらわにしたゾロにサンジは困惑顔だ。

「んなこと言われてもお前、オレの身にもなれよ…。とにかく今はまだ無理だ」

サンジはそう言って力なくため息をついた。

その様子にさすがにゾロも引き下がるしかない。

「…わかった。お前の覚悟ができるまで、もう少し我慢する」

いつもより少しだけ優しい口調で、しょんぼりとうなだれるコックの頭をよしよしする。つけっぱなしの耳が揺れた。

コックが顔をあげる。自らつけたマスクをはずして、ゾロは優しく触れるだけのキスをした。

唇が離れると、サンジはその青い目で真っすぐにゾロを見た。鋭いけれど優しさを秘めた真摯な瞳とぶつかる。

「オレも…もう少し考えてみるから…だからもう少しだけ待っててくれよ」

「…ああ」

とっくに我慢の限界だったがここまで来たら強姦するより、同意の上で抱き合いたい。

「我慢するから、お前もあんまり色気振りまくなよ。目の毒だ」

「はあ?」

きょとんとするサンジにマスクを押しつけて、ゾロはキッチンを後にした。

折角手に入れたんだ。なるべくなら壊したくない。大切にしたい。不器用で短気な自分が、どこまでできるかはわからないけれど。



翌日。
甲板で寝こける剣士の元にコックがやってきた。黒いマスクを装着させて、目を覚ました剣士に柔らかく微笑む。

「おめぇも中々似合ってるぜ?これぞ正にマスクオブゾロってか。さすがに黒耳は似合わねーか」

悪戯っぽくニカッと笑う。寝ぼけながらも頭の中で(犯してぇなぁ)と考えているゾロの耳元に唇を寄せて、

「あれから一晩中考えて…お前ならいいかもしんねぇって少し思った」

擦れた甘い声でぽそりと囁いた。
寝ぼけ剣士は一瞬何を言われたのかわからなかったが、目の前で照れ隠しにもう一度ニカッと笑ったコックを見て、みるみる目を見開いた。

「そっ…」

「少しだけな!まだ完全に覚悟決まったわけじゃねぇけど少しは考えが変わったってことだ。ま、せいぜい期待しとくんだなクソエロ剣士」

挑発的にニヤリと笑って颯爽と立ち去った。

その後ろ姿を呆然と眺めていたゾロはふぅっとため息をつくと、

「人が折角我慢してやってんのに…わざわざ煽りに来るなよな」

呆れたように呟いて、それでも見えた希望に思わず顔を綻ばせた。

「そん時までこれは一応とっとくかぁ」

ニヤリと不敵に笑って外したマスクをポケットにしまった。

ごちそうはもうすぐそこだ。魔獣は内心ペロリと舌なめずりをして再び目を閉じ、家宝は寝て待つことにした。


end

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