本棚1

□骨まで残さず食べてね
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「こ・・・これ、良かったら使って下さいセンパイっ!」


場所は体育館の近くにある水飲み場。頬を赤く染めてタオルとドリンクを差し出す女生徒に道着姿の役者顔負けの剣道部顧問。


「・・・・・・誰がセンパイだ誰が」


「あいたっ!?」


後者、土方は彼女の額を弾き、呆れを滲ませながらそう言った。


「トシ先生、暴力はんたーい」


「白々しいんだよ。つーか『センパイ』って何だ『センパイ』って」


先ほどまでの初々しい感じは何だったのかという位がらりと彼女の雰囲気が変わる。飄々とした、人を食ったかのような・・・・・・沖田によく似たものに。


「いやー・・・急に青春ごっこしたくなっちゃって」


「現在進行形で青春真っ盛りな奴が何言ってんだ」


呆れた、と深いため息を吐きながらもちゃっかりタオルとドリンクは受け取っている。


「だって周りに青春真っ盛りな人達が居るんでどうも自分が青春真っ盛りな年齢であることを忘れそうになるんですよね・・・・・・」


思い出すのはとある後輩と可愛らしいマネージャーだったりどこぞの風紀委員長と初々しいお嬢さんだったりどっかのサボり魔とその幼馴染みだったり。



「リア充撲滅しろ」



「・・・・・・そんな気味悪い笑顔で物騒な事言うんじゃねえ」


満面の、邪気すらない清々しくも可愛らしい笑顔で吐き出された低音での一言は破壊力抜群である。もちろんギャップ萌えではなくそのギャップが怖いという意味で。


「何言ってるんですか。別に彼らの妨害をするわけでもなく、邪魔をしているわけでもなく───ちょっと不幸になれと願うかわいらしい希望じゃないですか。気味悪いなんて、物騒なんて失礼ですねえ。トシ先生の癖に」


「どっから突っ込めばいいか分かんねえな」


渡されたスポーツドリンクを土方が開けて口に含んだその時だった。



「時にトシ先生─────スク水とビキニとセパレイトと競技用どれが好みですか?」



「っ!?」


あまりにもアレな質問にぶばっと吹いた。そして噎せた。


「げほっ・・・おま、何言って・・・!」


「夏といえば合宿、合宿といえば海、海といえば水着でしょう?我らがマネージャーもとい雪村千鶴ちゃんの水着を僭越ながらこの私がプロデュースしようかと思いまして」


にんまりと笑う彼女に口元をタオルで拭いながら言い返す。


「んなことしたら平助が黙ってねえんじゃ・・・」


「ふふふ・・・・・・心配御無用!千鶴ちゃんを可愛くプロデュースするのが私に与えられた役目ですからね!」


「誰にだよ・・・・・・」


無駄にきりっとして言った彼女はどこからかメモ帳を取り出して呆れる土方に説明を始める。


「私自身としてはあえてのスク水をオススメしたいんですけど男性陣としてはカラフルかつ刺激的なタイプを希望する声が多かったんです・・・・・・体型的なモノを考えるとビキニよりはセパレイトかなぁなんて。勿論、近年出てるアレ・・・洋服もどきは却下ですよね邪道です。千鶴ちゃんの恥ずかしがる姿とか想像するだけで萌え・・・燃えます。ご飯三杯はイケちゃいますよ。そんなワケで土方先生はどれがいいと思います?」


(本当に女かコイツ?)


繰り出されたマシンガントークの中には聞き逃せない部分もあったがまた深々とため息を吐く。


「それを俺に聞く必要はねえだろ・・・・・・しかも何で雪村なんだ」



(お前のじゃねえのかよ・・・って俺は変態か!)


心の中で全力で突っ込みをしつつそう言うと彼女は笑みを深めてとんでもない発言をした。


「・・・・・・・・・いや、男性陣の意見を取り入れる為ですけどまあ、トシ先生の好みはどれなのかな、なんて」


「・・・・・・っ」


その言った時の、彼女の顔といったら。


「・・・・・・・・・・・・休憩も終わりですし、戻ります」


「待てよ」


ぱしりと逃げるように走り出そうとした彼女の腕を掴んで引き寄せて耳元に顔を寄せると囁く。


「─────・・・・・・」


「・・・っ!」


途端、彼女は目を見開いて──楽しげに、嬉しげに頷いて笑った。



(了解しました、トシ先生)


そして不敵に微笑んで言ったのだった。






20110704


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