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□愛すべき狼少女少年
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「今日はね、虹がでてたよ」


「土方さんってば相変わらず仕事、仕事、仕事でさー」


「千鶴ちゃんと斎藤くんが初々しくてねー。ちょっとからかっただけなのに二人して茹でタコみたいな顔しちゃって」


「左之さんが泥酔して珍しく新八さんが担いで帰って来たんだよ!」



最初は体がだるかった。
次は咳が止まらなくなった。
次第に呼吸が苦しくなった。
段々動くのも億劫になった。
咳に血が混ざるようになった。



今はもう、剣を握ることすら、起き上がることすらできなくなって。



「ねえ総司さん。大丈夫だよ」


この病の名を知った。
残された時間を知った。
絶望する未来を知った。


それでも。


「みんな、帰りを待ってるよ」



僕より弱い癖に
僕より不安な癖に


彼女は明るく嘘を吐く。



やさしくてざんこくなゆめをはく。



「近藤さんがね、お見舞いだって」


「平助がそのうち来るよ」


「明日は外を歩けるよ」



真っ赤な目で、涙もなにもかも隠して君は嘘を吐く。



───僕が何も知らないとでも思ってるの?



そう、言いたかった。
そう言えば君は泣くかな?
いや、それでも笑うんだろうね。


「ねえ、総司。大丈夫」


誰より愛しい君の、全てを懸けた嘘だから。



「────そうだね」



だから僕も、嘘を吐くよ。



「だって、言い続けるその間は本当になるから」



近藤さんは捕まって。
土方さんは北へ。
千鶴ちゃんと一くんは会津へ。
新八さんと左之さんは離れて。
平助と山南さんは死んだ。
そして、最期まで僕は。



「まるで君達は狼少年のようだな」


松本先生はそんな僕たちを異国の寓話にたとえてそう言った。



狼が来るから羊が食べられると嘘をついた少年は、最期に起こった『真実』を『嘘』としか見てもらえなかった。だけど僕たちは。


どちらも嘘吐きだから。



なんて醜い、救われない。


「総司・・・・・・だから、一緒にいてね」


───そんな風には思わない。


「うん・・・最期まで・・・・・・いるよ・・・」


嘘の中の『本当』を抱いて、必ず至る『終わり』を想う。



「総司!今日はね────」



優しい、残酷な、滑稽な、愛しい嘘に包まれながら。




(そして僕たちは今日も、)


2011
0401〜0430





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