本棚1

□桃の宴
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雪が融け、梅が綻び春も近付いてきたある日のお話。


「・・・・・・・・・桃の花?」


泣く子も黙る鬼副長こと土方は広間に生けられていた可愛らしいその花に驚いた。


「おはようございます!土方さん!」


「あぁ。ところでコレ生けたのお前か?」


「はい!何か問題ありました?」


「いや・・・」


泣く子も黙る人斬り集団の新選組、つまり男所帯に可愛らしい桃の花・・・・・・恐ろしく似合っていない。


「あ、朝食はもう少しで出来ますんで!」


ばたばたばたっと物凄い勢いで走り去った彼女にとりあえず待つかと土方は広間に入ったのだった。


「またえらく可愛らしい花が生けられてんなぁ」


その後集まった幹部達もまた生けられた花を見て笑う。


「・・・なぁ土方さん。これ生けたのって・・・」


「あぁ。あいつだが」


「・・・・・・・・・・・・なるほどな」


原田は理由を察したらしくそのまま自己完結して席につく。


「・・・?」


そういえばやけに彼女は浮かれていたような気がする。何か特別な事などあっただろうかと土方は首を傾げた。



その答えは数刻後に見つかる。



「ちっづるちゃーん!お八つ食べよ!今日は特別に甘酒にあられに干菓子だよ!」


「はい!」


桃の花
甘酒
あられ


「・・・そういう事かよ」


桃の節句。
女子の祭り。
すなわち───雛祭り。


千鶴は外に出られず男装もしているため普段から女子らしいことはさせてやれない。これは彼女の精一杯の思い遣り、なのだろう。


「祝われるべきなのはお前もだろうに」


そうできない元凶である土方はほんの少し哀しげに笑って──手早く身支度を整えてこっそりと出掛けた。


(今日くらいは、な)







夜、夕食はいつもよりちょっぴり・・・否、かなり豪華だった。


鯛飯にきんぴらごぼう、蛤のお吸い物に幹部や平隊士にも上等な白酒が振る舞われ、千鶴と彼女はあこや餅をこっそり食べていた。そして、二人の髪には。


「しっかし土方さん・・・いつ買ってきたんだよ」


「あぁ?何時だっていいだろうが」


千鶴には淡い桃色の結い紐、彼女には──薄紅のギヤマンが付いた花簪を。



「よし諸君!今日は呑むぞ!」



近藤の音頭が高らかに響き、祝いの夜は賑やかに更けていく。




(土方さん!土方さん!ありがとうございますです!)
(うぉっ!?抱きつくな!つか、酔ってるなお前?)
(えへ)
(えへ、じゃねえよ・・・ったく弱え癖にあんま呑むなよな・・・)


2011
0303〜0331


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