短編集

□忘れられない
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車を発進させてから、彼が話しかけてきた。

「今日、誕生日だよね?おめでとう」

「え?ご存知だったのですか?ありがとうございます」

「だって、昨日、昼飯時に課長にボヤいてじゃないか?
十代最後の誕生日なのに、友達は彼氏優先しちゃって祝ってくれないって」

(うわぁ〜、恥ずかしい!聞かれていた!)

当日は都合が悪く一緒に祝ってあげられないと、
一週間前に私が希望したケーキバイキングで、すでに祝ってもらっていたから
本気で発言したわけじゃないと、友達の弁解をする私。
彼は、笑い出して、
「君は友達思いなんだね。大丈夫、その友達をヒドイ人だとは思っていないよ。
ただ、こんなオジサンで悪いけれど、
君の19歳の誕生日を祝ってあげたくて誘ったんだ。
迷惑だったかな?」

「いいえ、とんでもない!!すごく光栄です。嬉しいです」

夢のようなシチュエーションで、顔がだらしなく緩んでしまいます。

その後は、美味しい食事と、綺麗な夜景で、私は高揚した気分で
雰囲気に酔いしれていました。

こんなにも素敵な時間を過ごし、それを与えてくれる彼と離れがたく、
無残にも深夜を知らせる時刻を恨めしく思いつつも、
徐々に私のアパートが近づいて、今日が終わることを認めざるを得なかった。
「主任、今日はありがとうございました。とても嬉しかったです。
本当に楽しくて、最高の誕生日を過ごせました。
こんなにも幸せな19歳を迎えることができたのは、主任のお陰です。
ありがとうございました。」

シートベルトをはずし、彼に上半身を向けて、頭を下げてお礼を述べた。
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