短編集

□脅迫に縛られて
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 拒めない状況を作ったのは私だから、自業自得だと思っている。

 高校3年に進学したころから成績が下がり、テスト順位も100番以上も落ちて、両親から厳しく叱られてムシャクシャしていた。
原因は親友の裏切りで、めちゃくちゃに荒れていた精神状態だったと言い訳したいが、そんなことで泣いてみたとしても、両親は慰めてもくれないことは経験上知っているから、お小言が終わるのを、ただひたすら我慢する。
 
 溜まりに溜まったストレスをどうにか発散したくて、化粧もしないくせに、どのマスカラにしようかと何点も手にとって悩んでいるふりをして、その中のひとつをカバンの中に隠した。
 ドラックストアの自動ドアをくぐった時は慌てず自然な足取りでと言い聞かせていたが、心臓がかなりの早さで動いていた。
そのままの歩調で駐車場を抜けた途端に、笑いがこみ上げた。
盗みがこんなにも簡単だったことの驚きと、成功したことの高揚感。なんとも言えないスリル感に酔いしれて、イヤなことが頭から一掃した。
しかし笑みを浮かべた私の顔は、瞬く間に凍りついてしまった。
まだ店員に見つかった方がマシだった。学校の教師に一部始終を見られていたのだ。
 
 両親にバラされたくないから、先生の出した条件に逆らえない! 逆らえない! 逆らえない! 逆らうことができない!!
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