fiction


□サヨナラ
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雨の中での卒業式は初めてだった。
送り出すのはもう三度目になる。

置いていかれるような寂しさはないが、こいつらが自分の生徒ではなくなるということが未だに信じられない。
バカみたいな本当にバカで、どうしようもなく優しいこいつらが各々の新しい一歩を踏み出していく。
泣き出す者もいればはしゃぎ騒ぐ者もいて様々だ。



―その卒業式独特の雰囲気にそぐわず、険しい顔で遠くを見つめる教え子が一人。


いつもシャープな整った顔が、今日はどことなく腫れぼったく見えた。
清々しい想いで今日を迎えることができずに、この場所から去っていく。
それでもいいと、全身を震わせて必死に伝えてにきた真っ直ぐなアイツがただただ眩しかった。



泣くことなんてない。
もったいないから。

きっとすぐ新しい相手が見つかる。

だってお前男前だもん。

今度はちゃんと男でもなく、オッサンでもない相手に巡り合えるさ。



充血した目が痛々しかった。
ごめんね、と何度お前に向けて呟いただろう。
悪いことなんかしてないけど。


ごめんね。
応えてあげられなくてごめん。

嫌いなんじゃない。
ましてや気持ち悪いなんて微塵も思わない。


でもね。

憧れを恋に変えたとき、苦労するのはお前だよ。


どれくらいの覚悟で言ったか知らないけど、一度で諦めるならそこまでだ。



お前はクソ真面目だから、どれだけ悩んだのかよく分かる。

だって死にそうだったもん。
あんなの昨日初めて見たもん。

ごめん、って言ったあと。
どんな顔してたか分かる?

言葉で人の心抉るのも上手くてよく喧嘩したけど、表情も見事に良心を鷲掴みしてったよね。
ちょっとヒステリックに怒るかな、とか思ってたのは甘かった。




なんで笑うんだよ。


なんでそんな
泣きそうな面して笑うんだよ。


帰ってから確実に泣いたよね。
オナるときよりティッシュ使ったよね。





ごめんね。

応えてやれなくてごめん。




好きだよ。

本当は。




好きだったよ、土方。











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