fiction


□スタンダード
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普通に告白して、付き合って。
普通にデートして、話をして。

普通に歩み寄る。




普通って何ですか?






スタンダード






朱い夕日が空を包む。
巡回の終わった土方は特にやることもなく、屯所へ脚を向けていた。

胸ポケットを探る慣れた手つき。
だがそこには何時も常備されているはずのものがない。

(買いに行かねェと・・・)

煙草切れで苛立った頭を回転させ、行き先を変えた。
大通りを抜け、狭い路地裏を通り、近道をする。
何分あれば行けるだとか、そこに着くまで何があるだとか。


その道でよく、誰かに会うだとか。


その誰かは、全部計算の内なのかもしれないが。

「・・・素直じゃねェよな、」


普通に、会いたいと言えば

普通に、時間だって作るのに


嗚呼でも、それを避けてきたのは−





「・・・俺か。」





歩み寄れば逃げていく、どちらも。
触れた分だけ恐くなる、どちらも。


素直じゃないのは、俺。







「なーにしてんの?」

後ろからぽん、と頭に手が置かれる。
あからさまにびくりと肩を揺らして勢いよく振り返ると、予想した通りの人物が立っていた。
一つ、溜息をつく。

「・・・分かんだろ?」
「んー・・・この先行くと・・・煙草買いに?」

いつものやりとり。

「それとも」
「御前に会いに・・・ってか?」

薄く口元に弧を描く。
何度もお決まりのパターンにはめられていては限りがない。

「・・・御名答、」

にんまり笑い返した坂田は、頭に置いていた手を肩に移動させた。

「なぁ、」
「・・・ん?」

「御前は男が好きなのか?」

じ、と坂田を見つめた。
少し考える素振りをして、暫しの沈黙を大きな笑い声が破る。

「ははっ・・・だったら土方も男のが好きなの?」

「なっ違・・・俺は御前だから・・・!」

「だったらそれ一緒。・・・俺も御前だから」


へらりと頬を緩ます坂田が小憎らしくて
同時に恥ずかしいことを言われたと分かって
何だか笑いが込み上げてきて

どうしようもなく嬉しくなった。





普通って何ですか?

普通って必要ですか?

普通って基準は何ですか?






嗚呼なんだ−

普通って俺達にはいらなくないですか?






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