fiction


□耐久レース
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走っている夢を見ました。
追いかけてる夢を見ました。

どちらも進むことはなく、
その先には届かないものがありました。





耐久レース





初めて出会ったのは
母親の再婚相手を紹介されたとき。
次期母親になるであろう女の後ろに小さく立った黒髪の俺に劣らぬ美少年。
無愛想でやたら面だけよくて、第一印象はサイアク。

次に会ったのは結婚式。
披露宴ではもちろん同じ席。
何も喋らない相変わらずのストイックな雰囲気が気にくわない。
気取ってんじゃねえよと眼を飛ばしていれば
切れ長の夜のような瞳が俺を貫いて完敗。

その次に会ったのは父が建てた新築。
同じ部屋に押し込められて、初めて会話を交わした日。
薄い唇が開いて「よろしく」と簡単な挨拶が降ってきた。
そいつはすぐ気まずそうに顔を逸らしたので
「こちらこそ」と返せばほっとしたように頬を緩ませていた。

一緒に住むようになって4年目の春。
兄が男を連れてきた。
銀色の髪に緋色の瞳。
玄関で出くわした俺に、目を泳がせながら友達だといった。
その目は嘘をついていた。




就職が決まり兄弟になってから8年目の春。
兄は独り立ちすると両親に告げた。
俺には何も話さずに。
両親からことを聞き、胸倉を掴んで詰め寄れば
乱れたポロシャツから独占の赤い印が見えて
どろどろとした汚い感情が身体を這いずり回り
しがみついて泣いたことを今でも鮮明に覚えている。




そのあと、兄が話してくれた。
優しい嘘の詰まった言葉。

苦しそうに笑って羽のようなキスを送ってくれた。
今にも泣き出しそうなのに決して涙を零すことなどない、
兄の強い意思が秘められた瞳。
この瞳が大好きだった。
けっして嘘をつかないこの瞳が。
何があっても揺るがないこの瞳の中に
俺が少しでも映っていることが幸せだった。




出会ったときから少しずつ、少しずつ育っていった淡い恋心。
ずっと知らないふりをして、ずっと前から知っていた。
なんとも不毛な恋をしている。


この最愛の兄に。






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