>ヅラ銀・土銀SS
□路地裏小糠雨(1)
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一
路地裏に転がる死体なんて、かぶき町では珍しくもない。
靄とも霧ともつかない小糠雨が降る、こんな底冷えの夜には特にそうだ。
湿った空気と不明瞭な視界。ネオンの隙間に潜む闇深い場所に、色んな理由で人は転がる。
喧嘩、泥酔、人殺し。とろけた泥とポリバケツの隙間に、何が転がってようと驚きゃあしない。秋の長夜が開けた後、日に晒されるそれを片付けるのは別のヤツの仕事だ。曖昧模糊とした人型の為に、お楽しみに満ちた貴重な夜を邪魔されるわけにはいかない。
しかし。
行きつけの飲み屋から出た銀時は、借りた番傘を開きかけた手を止め、裏路地転がるそれを見やった。
飲み屋の入った雑居ビルの狭間には、店の裏口の他には何もない。
向こうの大通りから入りこんだネオンが闇を薄くし、並ぶポリバケツの薄青を浮かび上がらせている。その間に、男が一人転がっていた。
銀時は酒で火照った喉元を掻く。
常ならば絶対に、見ないふりして行き過ぎる。久々に入った小金で一杯やって、ほろ酔いで河岸を変えるかと店を出たこのタイミングなら間違いなく素通りだ。
しかし。
銀時は傘をくるりと回すと、路地に足を踏み入れた。
ぴしゃ、と足下でブーツが鳴る。
つっかえそうになった番傘を畳み、銀時は転がる死体らしきものを覗き込んだ。
「おーい。こんなとこで死んでると風邪引くよ」
しゃがみ込む。こんどはつんつんと制服を、夏場はさぞ暑かろうと同情を禁じ得ない詰め襟を引っ張る。
「これ官服じゃねえの? 泥だらけにしちゃっていいわけ? クリーニング代税金だろ、もっと納税者に気い使って生きようよお役人」
それでも動かない死体を、銀時は首を傾げて見下ろした。
鼻につく腐臭の中、コンクリの階段に半身を預けゴミのように転がる男の顔は真っ白だ。髪も服もずぶ濡れで、常日頃の伊達男ぶりが台無しである。
んなこたしったこっちゃねえけど、と思いつつ、銀時は立ち上がった。
水たまりに浸かったブーツを振り上げる。