>カカイルdeしーえすあい1

□カカイルdeしーえすあい1-4
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ラスベガスの夜は、けたたましい。
喧騒とネオンに満ちあふれ、騒動と狂乱に沸く夜のカジノ街を、タクシーの後部座席から眺めながら、イルカはいつもそう思う。色とりどりのネオンが撒き散らす光は、この荒野の街から昼夜の区別を完全に消失させる。それが狂乱の賭博街を更なるジャンキーな世界へと導くのだ。
広い道幅のおかげであまり渋滞のない道を、滑るようにタクシーは進む。賭博街と住宅地の狭間、ネオン街から一歩退いた位置にそびえるコンクリの建物前で緩くカーブを描くと、正面玄関前でぴたりと止まった。
運転手に礼を言い、忘れず領収書もきちんともらって、イルカはタクシーを降りた。
バタム、と背後で閉まるドアの音。夜でも明るい表玄関への階段に足をかけながら、イルカはなんとなく振り向く。去っていくタクシー、その先のネオン街。
光に溢れたその景色をこの位置から見るのが、イルカは割と好きだった。ここからだとあの街はまるで舞台のように見える。華やかな装飾に彩られ、魅力的な役者達が舞い踊る、美しい派手な表舞台。
イルカは目を細めると、今度は目の前の建物へと視線を転じた。灰色の四角い入口は、夜でも蛍光灯の青白い光が溢れている。行き交う人に、開け閉めされるオートドア。赤い光りを点滅させながらファンファンと飛び出していくパトカー達。
ここはいわば、ラスベガスの舞台裏だ。華やかな衣装を脱ぎ仮面を取った役者達が、ただの人に戻る場所。
そしてここは、イルカの職場だ。
あの狂乱の地から、カカシに導かれ、ようやく辿り着いたイルカの職場。
「……おし」
イルカは一人密かに気合いを入れると、肩のシルバーケースを担ぎ直す。
そして夜のベガスと張り合うように騒がしい、己の職場へと登っていった。



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