>カカイルSS

□窓の外2
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「アスマ先生、今ちょっといいですか?」
  木の葉病院第二外科医局で、パソコンの画面を睨みつけていた猿飛アスマは、光を放つディスプレイから顔を上げた。
  机と資料の向こう、医局の狭い入口に立つ若い看護師の姿がある。淡いピンクのナース服に、ディズニーキャラクターが大きく描かれたエプロン。小児科病棟看護師特有の衣装に、アスマはしょぼくれた目を擦る。
「イノか。どうした」
「特に急がない用件です。お手透きなら、聞いて欲しくて」
  持って回った言い方をせず、ずばりと斬り込んだ質問をするナースに、アスマは苦笑いをする。
「俺がこんなとこにいるから想像はつくだろうが、今夜は暇だよ。術後の患者も少ないしな。まあ何が起こるかわからんから、話すんなら今だな」
「了解です」
  高く括った髪を揺らし、イノも笑った。
「今、誰もいませんよね?」
「見ての通りだが。何なら場所を変えるか?」
「いいえいいんです。すぐ済みますから」
  ぱたぱたとナースシューズを鳴らして入ってきた看護師は、灰色の丸椅子を一つ引っ張り寄せると、アスマの隣にちょこんと座った。画面をちらりと見て、笑う。
「電子カルテ、慣れました?」
「いやまだだなあ。どうもこういうのは好かねえや。紙の時代が懐かしいぜ」
「でも手の負担は減ったでしょ?」
「そうでもねえよ」
  アスマはマウスを持つ手を離す。
「思うように動かねえから指がつりそうだ。術式間違えたらどうしてくれんだか」
「外科医泣かせですねえ。でもまあやるしかないですよね。完全オンライン化しちゃったんだし」
  ぱきぱきと意見を言う年若い看護師に、アスマは苦笑する。
  医師と看護師である上に、別棟の小児科所属であるイノは、アスマとは大分距離のある関係だ。がしかしナースと話すのが苦手なアスマの仲はかなり気安い。病院付属の看護学校に講師として派遣されていたと
き、まだ学生だったイノの指導教官をしていたことがあるということもあるが、物怖じしない彼女の性格にも原因があるとアスマは考える。
「まあな。……それでどうした。小児科の医師に泣かされたか?」
「私を泣かせる人がいるなら教えて欲しいもんだわ。ぼっちゃん先生方に負けるほど、私はやわじゃありません」
「は、違いねえ」
  くく、と笑ったアスマに、イノは少し顔をゆるめると、実は、と声を潜めた。
「はたけ先生のことなんです」
「……カカシ?」
  アスマは眉を顰めた。
「聞かれてもな。俺は奴の個人情報は知らねえぞ」
「なんですかそれ」
「惚れたってんじゃねえのか? 顔だけはいいしな、あいつ」
  頷きながら言う医師に、イノが呆れ果てた、というように溜息をついた。

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