>カカイルSS

□ずっと当たり前みたいに
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何を考えて、ホテルの床に絨毯敷き詰めようなんて思ったんだろう。


タクシーから降り回転する自動ドアをすり抜け、毛足の長い茜色の絨毯を走るように歩きながらカカシは思う。
土足が普通の欧米なら、わざわざ汚れを吸いこむこんなもんを敷こうなんざ思わないだろう。だとすればこれは綺麗なところには靴脱いで上がるのが当たり前な日本の風習だ。間違いない。
つらつらとそんなことを思いながら華やかな姿の男女がひしめくロビーを足早に横切る。エントランス脇のイベントスケジュールで会場は確認してあった。6階桔梗の間。
多分同じ名の書かれた招待状は封も切らずに胸ポケットにしまったままだ。
吹き抜けのロビーの左に据えられたエレベータは三基。半透明の箱が上下するそれの上行きボタンを叩くように押して見上げれば、18、の光が点滅したところだった。


最上階。
――ついてない。


カカシはジャケットを脱ぎ、ついでに白ネクタイも緩めて息を吐いた。慣れない物を付けると息が詰まる。
当年とって25なカカシはこれが初めての結婚披露宴というわけではない。慣れないのはその色ではなくネクタイそのものだった。医者という仕事は世間が思うよりも割とルーズで、改まった場所さえしのげればあとはポロシャツジーパンでもかまわない。
――ちょっとは着る物にかまいなさいと、うるさくいう奴がいない訳じゃないが。
脳裏に過ぎる声に小さく笑った時、チン、と綺麗な音がして目の前の扉が滑るように開いた。
「――カカシ先生?」
驚いた、それでいて耳に馴染んだ声に、カカシはゆっくりを顔を上げる。
白いタキシードに身を包んだ、うるさい奴がそこにいた。



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