>カカイルSS

□お見舞い
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赤、桃色、橙、黄色。黒、紺、茶、灰色。
  無地にチェック、縦縞に柄物のパジャマを眼にして、海野イルカは足を止めた。

  閉店時間手前の木の葉デパート下りエスカレータは、そろそろ佳境に入る売り出し目当てに地下一階食品売り場へ移動する客でごったがえしている。屋上にあるペット売り場で式神実習に使う小動物を手配した帰り、半額になるコロッケを狙って地下に行こうとしていたイルカだが、途中の売り場に並んだ色とりどりの寝間着に気を取られてつい客の流れから外れてしまった。

4階寝具売り場。
大きめの家具とテーブルウェアが専門のこの階は、日頃イルカが踏み入れるような場所ではない。精々同僚の結婚祝いに代表でかり出され、馬鹿高いテーブルクロスを買ったくらいだ。

 ベージュに小花の散った品を思い出しながら、イルカはふらふらと寝間着売り場に近づく。そろそろ閉店に近いデパート、しかも寝具売り場なのだから人気はまるでない。かつかつというイルカの足音だけが売り場に響き、重ねられた毛布を畳んでいた年嵩の女性店員が微かに疲れた声で「いらっしゃいませ」と言った。
「秋の総決算 冬物衣料特売」と書かれたポップを前に、イルカは立ち止まった。
  あたたかさそうな厚手のパジャマが、平台に積まれている。
  薄灰色のパジャマに視線を止めたイルカは、それを手に取った。

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