>おお振りSS

□ナツハナシ
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 アクエリアス粉末…1箱。
  ミネラル麦茶…5箱
  牛乳……5本
  セービングおにぎり用のり(カット済みもの)…1箱
  お米…10キロ
  塩……1袋
  ホース(できるだけ長いの)…1本

  小さなメモ用紙に書かれたコマゴマした字を見て、花井は絶句した。
「……」
  練習最中のオニギリタイム。むわっと蒸し暑い夜の空気と、スタンドライトの細々とした明かりをものともせず、しゃけだイクラだなんと牛肉だと座り込んではしゃぐ部員達。そんな汗くさい野郎共の中を、くるくると歩き回って、牛乳おかわりいる人ー、と声掛けしているかわいらしいマネージャー。
  その臙脂色のジャージからひらりこぼれたメモ用紙は、皆と一緒にしゃがむ花井の背後に落ちた。偶然目に入ったそれを、なんだこれと何気なく拾って、読み辛いなとスタンド脇のライトの下に移動し。
  そして花柄もかわいらしい小さなメモの内容に、花井は思い切り打ちのめされた。
「篠岡……」
「はーい。ちょっと待ってね次いくねー」
「や、これ」
  ヘロ、と力なくよれた花柄に、牛乳パックを差し出していたマネージャーが、わあ、ととびあがった。
「落としてたんだ! ありがと花井君。助かった!」
  大変大変、と紙片をポケットに仕舞い込む小さな手。体操着の細い肩。
「……買いモン?」
「うん。明日買い出しなの。よかったよー。これないとすーぐ忘れものしちゃうから」
  危ない危ないと笑う篠岡。たぷんたぷんと会話の早さで注がれる牛乳。雫の浮いたパックを支える指も細い。なんとなく目をそらしながら、明日、と花井は小さく言う。
「確か……シガポいないよな」
「うん。市の教育研究会なんだよね」
「でも俺ら練習あるぞ」
「そりゃそうだよー。この時期に休みなんてあるわけないじゃない」
  ミーティングは昨日だったし、と女子マネは笑う。
「んじゃ誰が買い物行くんだ?」
「あたしだよ」
「一人でか!?」
  思わず出た声に、びくんっと振り返ったのは輪から離れたところにいた三橋だった。そばで田島がなになにー? と声をあげている。
「あ、三橋君びっくりしちゃったねー」
  あはは、と笑った篠岡はあくまで明るい。
「平気だよ。田島君のお母さんにママチャリもらったの。後ろに籠あるからいくらでも積めるんだよー」
  嘘つけ、と花井は思った。



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