>トリコSS
□Time after time
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桜の花が散っていたということである。
だから季節は春だったのだろうとココは言った。ひらひらと花弁が散る中を、みんなで歩いていたのだという。
「ちょうどこんな色だったんだ」
白い皿に置かれた、淡いピンク色のムースを見ながらココは言う。
「その日は訓練が休みでね。トリコ達は暇を持て余していた。僕は決められた日課があったんだけど、始まる前にみんなそろって誘いに来たんだ」
淡々とココは語る。ホテルグルメのティールーム。張り出したデッキの上にあるテラス席で、テーブルを挟んで向かいに座る小松はじっとそれを聞く。
トリコを通じて知り合ったこの男は、時々このホテルにやってくる。きちんと電話して予約を取って、小松の働くレストランの料理を食べにくる。どこかの誰かのように唐突に来て食糧庫を空にしたりしない。手順を踏んで型どおりに、常識的にやってくる。
「日課の後じゃ僕は外に出られない。日課の前なら、僕の意思の介在する余地がある。そのことをあいつらは知ってたんだな。よくそうやって、出かける前を狙って誘いに来た」
ティーカップに手をかけたまま、ココはそう言うと軽く微笑んだ。デザートプレートに残った桜のムース。葉を模ったチョコも添えられたバニラアイスも食べ終えて、不意に口を開いたのはココがはじめだった。
「僕は散々渋ったんだけど、小松君も知っている通り、奴らは強引でね。昔から変わらない。引っ張り出されて外に出た。もう僕らは庭に出られるようになっていた」
『日課』『訓練』『庭』。
聞きたいことは山ほどあるけど、小松は決してそれを尋ねない。気にならないと言えばうそになるが、第一ビオトープからジュエルミートまでの経験で大体の察しはつくし、何より目の前にいる男の表情がそれをさせなかった。