>トリコSS

□IN THE SKY
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その手は赤く染まらないけれど。
俺達は、自分の罪を知っている。





切れたエンジンの余波が、振動となって体に伝わる。
慣性の法則に従って、機体はゆっくりと滑走路を進む。この戦闘機がタイヤを必要とするのはここだけだ。離陸と着陸と。重力と慣性に捕らわれて動く。


『T-01、帰着確認しました。ロード1の使用を許可します』


雑音混じりの声がヘルメットから響く。


「了解。T-01ロード1使用。これより格納にうつる」


ラジャ、と明快な声が耳に届く。見知った少女の弾むような声に、少しだけ苦笑しながらトリコはその巨体を右に傾けた。コクピット下部に備えてあるハンドルに手をかけ、武骨なタイヤを動かす為に回転させる。


『50,40,30』


耳元でのカウント。機体はのろのろと灰色のアスファルトの上を進む。ゆるく回っていたプロペラはとうに止まっている。機体が全身の力を抜いていくような虚脱感。
オレンジ色の作業つなぎを着た案内員が赤い旗を振る中央、その手前でゆるくハンドルを逆に切った。
走るように両脇へとそれる赤旗。


『20、――10』


ぴたりとライン上に付けた鼻先に、管制員のゼロの声が被さった。


『機体停止。T-01格納に入ります。操縦者は直ちに離艦してください』
「了解――うまくなったな、リン」
返答に私信を混ぜれば、へへ、と笑い声の後に嬉しそうな声がした。
『おかえりだし、トリコ。きょーもかっこよかったし!』
「おう。ありがとう」


公式ラインで私信などもってのほかだが、ここでは軽い苦笑の後に黙認されるのが常だ。前線ではない、後方基地だということが理由なのかもしれない。
ハンガーの背後には、大した距離も置かずに灰色の山岳地帯がそびえている。山肌を削った台地にあるここは、第66空挺部隊という。冗談みたいな数に最初は呆れたが、今は慣れた。要は正規兵のほとんどいない――傭兵部隊だということだ。
息を吐く。ヘルメットを外し、見上げた強化ガラスの向こうは馬鹿みたいな青空だった。



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