Short story

□貴方の笑顔は人を幸せにする
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ぽちくんとの散歩も終え、一段落着いたところで私は縁側に座っていた。
こうして庭の景色を眺めるのも随分と久しぶりな気がする。
結構忙しかったんだなぁ……と思う。

仕事に追われていて、どのくらい仕事したのかなんて考えてもいなかった。
―――それほど忙しかったのか……改めて思うと凄い自分が頑張ったような気がする。

ふと、彼のことを思い出す。
密かに思いを寄せている彼、アーサー・カークランドの存在だ。

――ああ、何で今彼のことを思うのでしょう……
彼は私のことなんて見ていないのに……

以前彼とは同盟を結んでいた。
20年ほどの付き合いだったが、彼と過ごした時間はとても楽しかった。
その後、敵対しお互い刃を向けることになったが、また彼との繋がりを取り戻せた。

気持ちが高ぶっているのはきっと自分だけだと思う。
―――はしたない………

昔のことを振り返っていると急に睡魔が襲ってきた。
最近あまり寝ていなかったからか……

いっそここで寝てしまおうか――と思った瞬間、誰かがベルを鳴らした。

――今日は誰も来る予定ではなかったはず…?

そう思い、立ち上がって玄関へと向かう。
やはり来客のようだ。
玄関へ向かい戸を開けるとそこにいたのは―――


























「アーサーさん…?」

先ほどまで私が考えていた人物、アーサー・カークランドそのものがいた。
なぜここにいるのか…それはわからなかった。
でもきっと世界会議場から直で来てくれたんだろう。
……嬉しい。
………もう、爺をからかっているんでしょうか…

「わ、悪りぃな、アポなしで来ちまって…」

「いえいえ!わざわざ来てくださってありがとうございます。どうぞ、中へ」

「あ、ああ」

私は彼を中に案内する。
すぐに彼から目線を外す。
これ以上彼を直視していたら心臓が止まってしまいそうだ。
今、きっと私の顔は真っ赤だろう。自分でもわかる。

彼を居間に案内する。
私はいつものようにおもてなし――お茶を出そうと台所へ向かおうとする――が、急に腕をつかまれて動きが止まる。
どうしたことか…と思い振り返ると真剣な表情をしたアーサーがいた。
どうしたのか、と尋ねようとしたとき、彼が「話がある」といった。

すると彼は私の手を離し、自分のポケットに手を入れたかと思うと何やら白い箱を取り出した。
その箱と、話とは何の関係があるのかがよくわからなかったが、何か大切なことらしい。

もしも国絡みの悪い話だったら………
嫌な予感を無理やり頭から消そうとする。

すると彼と目線が合う。
彼は顔を真っ赤にし下を向いてしまう。
私が大丈夫か―――と首を傾げて聞く、すると彼は顔を真っ赤にしたまま、「大丈夫だ。」と返す。
良かった、何もないみたいだ。

と、今まで動きが止まっていた彼が動き出す。
ふと、彼のほうを見る。
とても綺麗な瞳をしている。濁りの無い、まっすぐ、きらきらした瞳。
あちらではエメラルドグリーンと言うのだったろうか?
こちらでは、若草色とたとえるのが一番近いだろう。
そして輝く金髪の髪。
白い肌。
どれもがうらやましかった。
私の髪も、瞳もこんなに真っ黒で、肌は彼とは全く違うバター色。
とてもうらやましかった。

「菊?」

ボーっとしていたらしい。
私はアーサーに呼び止められた。

「なんでもないですよ」

私が軽く返すと彼はそうか、と言って納得した。
またアーサーに集中すると、今度は意を決したように箱を開ける。
その中に入っていたものは―――









「コサージュ、ですか?」

オレンジの花のコサージュだった。
とてもきれいな細工がしてある。流石はイギリスだ。
すると彼が私の頭に手をかける。
そしてさっき持っていたコサージュを私の頭につける。
何事か―――私の思考が停止する。
おそらく顔は真っ赤だろう。
紳士的な顔に思わず胸が高鳴る。
そして彼がおそらく私に向かっていった。

「好きだ」

と、ただ一言だけ。
しかしはっきりと。

「………え?」

私は思わず聞き返してしまう。
すると今度はさっきの紳士的から一編かわってツンデレを発揮する。

「す、好きって言ってんだろ!ばかぁ!!」

ちょ、萌えます!
ここにカメラがあれば……ってそれどころじゃない。
いま、いま、なんて…!?

「好き…って…誰が、誰をですか…?」

驚きの展開に思考が追い付かない。
全てがスローモーションのようにも見えてくる。

ああ、きっと夢なんだろうな。
私はそう思う。

「誰って……俺、が、菊を、だ」

「アーサーさんが、私を…?」

「そ、そうだ!!」

「え、え!?」

夢だ、夢だ。
これは夢なんだ。
アーサーさんが私のことを好きだなんて…!
絶対夢に決まってる、うん、きっとそうだ。

「こ、これは夢……」

「夢じゃねぇよ………」

アーサーが少ししょんぼりしたかのようにいう。
思わずくさいが頬をつねってみる。
あれ、いたい、何で?

「夢、じゃない……?」

私がそういうとアーサーはまた改まって、

「俺は菊のことが好きだ」

と言った。
ずっと届くはずないと思っていた。
彼はほかの人が好きなんだとばかり思っていた。
ただ、私が彼を避けていただけだったのだ。
ただ、私が嫉妬していただけだったのだ。

今の状況を完全に把握しきった私は、さらに顔を真っ赤にした。
彼は返事を待たんとばかりにそわそわしている。
これ以上の喜びはない。
最高に幸せだ。
私は彼の手を取り微笑んでそっと言う。

「私も、好きです」

それを言う勇気が今までにはなかった。
言っても無謀なことだと思っていたから。
所詮かなわない恋だと思っていたから。

でも、

彼も私のことが好きで。
これ以上の幸せはない、と思った。

「本当、か…?」

彼は少し目が潤んでいた。
余程心配だったのだろう。私の返事を聞いて安堵の表情を浮かべている。

「ええ、本当です。…お慕いしています、アーサーさん。」

「き、菊…有難う…」

私は彼をそっと抱きしめる。
あまりにも愛おしくて。

ふと、不思議に思ったことがあった。
このコサージュの意味は…

「アーサーさん」

私が彼の名前を呼ぶと彼は顔をあげた。

「なんだ?」

「この、コサージュは…?」

「ああ、それな。今日はオレンジデーだろ?」

「………あ」

オレンジデーとは、日本および韓国で開かれるイベントの事。
オレンジは花と実を同時につけることからヨーロッパでは愛と豊穣のシンボルとされ、オレンジの花は花嫁を飾る花として頭につけるコサージュに使われている。

「オレンジデー…すっかり忘れていました」

「まぁ、結構マイナーなイベントだしな」

「いえ、知ってはいたのですが、仕事でまったく日付の感覚がなくなっていましてですね…」

「……せっかくの休日なのに邪魔してごめん」

「いいえ!私はアーサーさんがいれば元気になれます」

私がそういうとアーサーはぼふっと顔を真っ赤にした。
と思うと急に顔をあげて私の唇をふさいだ。

「ん!?んっ……」

急の出来事で私は息ができなくなる。
彼の舌が入ってくる。
そして離したかと思うと二人の間に伸びていた銀の糸が空しくもプツンと切れた。

彼は悪戯な笑みを浮かべ、

「今日の夜は長そうだな」

と言った。





end
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