Short story

□70年後の君からの贈り物
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あれはいつの日だったか。

君が、未来からやってきた君がくれたのは。


*****


目が覚めると見慣れた天井が視界に移る。
今は初夏。
まだ6月なのに大分暑い日が続いていた。

しかし、ここは様子がおかしい。

今、現在。
ここ、日本は平和な未来都市なはず。―――だったが。

「なん…ですか……ここは」

外は雨。
そこまではいい。のだが。

「せ、んっ…そう………ッ…」

第二次世界大戦で見た景色と全く一緒のものだった。

周りの家から煙は出ていて、家も多くつぶされていた。

しかし一つだけ違うことがある。
それは、

自分が今白軍服を着ているということだ。

1945年、この時代に居た時来ていたのは黒軍服。
大日本帝国を象徴とする真っ黒な黒軍服だった。

ならば自分は今、自分がここにいるのは2015年ではなく、


1945年初夏


と言うことになる。
言うならば、タイプスリップ。
そう、自分は今1945年にタイプスリップしてきたのだ。
何故?何のために?決まってるじゃないか。


止めに行くため、でしょう?



*****


「ねぇ、今更何の用?」

日本が、否、菊が未来からタイムスリップしてきたということは今じゃ誰でも知っていることだ。
今更日本に勝ち目はない、と言うことも明らかなのだ。

ドイツが降伏した今日本は連合国軍に追い詰められている状態である。

だから日本の要求なんて聞かないつもりだった。

けど、

「あぁ、アメリカさん。ご無沙汰しています。突然のことで申し訳ないんですが、」

「何?降伏するつもりかい?」

「ふふふ、そんなことしませんよ。」

「………………」

「貴方たち、日本に原子爆弾落とすつもりでしょう?」

「………えっ?」

「もう一度言って差しあげましょうか。貴方たち、日本に原子爆弾落とすつもりでしょう?」

「…………!?」


まるで俺たちの計画を嘲笑うかのように。
いや、完全に嘲笑ってた。

しかも、未来の日本は平和主義だったんじゃないのかい?
武器を持たない国だったんじゃないのかい?

それなのに、「私達なら、貴方たちの何倍もの威力の爆弾作れますよ?てか作っちゃいましょうか。」なんて恐ろしいことをいうんだい。

確かに未来の技術は今よりも発達している事だろう。
しかし、未来の日本は”武器を持たない”国なのだ。

明らかに差をつけられた実感はいまでも覚えているよ。

まだ負けたわけではない、と言えば、「それ以上踏ん張るおつもりでしたらあなたの国だけではなく、パリ、ロンドン…大都市にも落下させますよ?では、お元気で。」

そう言い残してさっていく菊を俺はただ呆然と立ちすくんで見ているしかなかった。

*****


その後の日本の成長はケタ外れだった。
戦争中の不景気も見事に無くなり、逆にパリは壊滅的経済被害をあい、フランスがうちに「もう降伏する!」と押し入ってきたのはつい1週間前の事。
おいおい、つい1ヵ月前まで「これはこっちの勝ちだね」なんて強気なことを言ってたのは誰なんだい。

怒ったロシア軍が日本に侵入しようと試みたが10分程で退却したんだとか。

おまけにイギリスなんかは「友達だろ?」とか何だか言って菊の家に助けを求めたらしいが、締め出されたんだとか。当たり前だろ。

そんなこんなで立場が逆に変わってしまった。

ほかには、降伏したはずのドイツ、ルートヴィッヒ。イタリア、フェリシアーノが「一緒に戦う」と名乗り出たらしいが、笑顔で断られたのがつい2日前。

こうして日を重ねるごとに日本は成長していった。
……もう、誰にも止められなかった。
……恐るべし、大和魂。


*****


8月1日。


この日も照りつけるような太陽で頭が痛い。
被害はだんだんとアメリカまで浸食していった。
未だに日本は好景気を保っている。

「そろそろヤバイなぁ…………」

俺は今仕事でアメリカ中を飛びまわっている。
なんだか菊がインターネット…で情報をいじったんだとか…やってくれるな畜生。

しかもみたことない形のパソコンを使っていたんだとか。
なるほど、流石未来技術。
…………ではなくて。

そのせいで回線が混乱して情報漏れ、及び情報操作が行われたらしい。
………と言うことでいまこうして情報寄せのためにアメリカ中を飛び回っているわけだ。
しかし、ここまで追い詰められては居るが、一回も日本からこちらに武器で手を出したことはない。

本気で感心した瞬間だった。

しかしこちらも追い詰められている身。
油断はできない。
むしろ感心している暇なんてないのだ。
どうやら菊は有力な情報をいくつも持っているのだ。
しかしこちらはひとつも日本の情報なんて持って居ない。

「本気でやばいんだぞ……」

いっそ降伏してしまおうか?
そんな考えが頭をよぎる。しかしまだダメだ。まだ早い。
こちらが勝つんだ。
以前菊に「若気の至りですか」と言われた。
まぁ、否定はできない。
だから俺も「年寄りの意地だよ。」と言い返した。
菊はアルフレッドさんらしいなんていったけど。

今思い返せば自分たちは何でこんなことしてしまったんだろうと思う。
何でこんな戦争始めてしまったんだろうと、今では思う。
まぁいまさら思ったって遅いことってことは分かってるけどね。

そんなことを思い、雲ひとつない空を見上げる。


戦争終了まであと14日。




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