Dream

□ろくでなし
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私はろくでなしだから。

名前がオレにそう言った時のことは、今でもよく覚えている。
それは自虐や卑下じゃなくて、淡々と事実を告げているようだった。

オレはそんなことない、と強く否定したけれど、彼女は無邪気に笑うだけだった。

オレのほうがずっと、ろくでなしなのに。


名前は煙草は吸わない。
酒はオレとたまに飲むくらいだが、それでも度数の低いチューハイくらいだ。

ただ、ギャンブルだけは違った。彼女はオレよりひとつ年下だが、ギャンブルの海の中にいる。
そして何より、強い。
負けることは滅多に無い。
運が良いのか、それともそれ以外の何かがあるのか?

「ギャンブルはどこで覚えたんだ?」

多種多様なギャンブルに詳しい彼女に問うてみた。
お気に入りの紙パックのミルクティーのストローから口を離して、オレに顔を向けた。

「おじさんのところ」
「おじさん?」
「うん」

おじさん、という人間はあまりにも範囲が広すぎる。
親類も他人も入る。

「私母子家庭だったんだけど、ずっと親仕事で家にいなくてさ。おじさんのところに預けられてたんだ」
「そうなのか」
「おじさんがなんか、ギャンブルだったらなんでもあります?みたいな所経営しててさ。そこで覚えたの」

もしかしたら違法なお店だったのかもー、なんてのんきに笑う名前。

「そのせいで子供の頃からギャンブル覚えちゃったからろくでなしになっちゃった」

てへ、と漫画なら効果音がつきそうなほど愛らしい仕草で彼女は綺麗な唇はから赤い舌をのぞかせた。
オレはそれに、ひどくどきりとした。

「そんなの、別にお前のせいじゃないだろ」
「んー、そうかなあ?」
「オレのほうがろくでなしだ」

空になったビール缶を握ってつぶした。

すると彼女はオレの方へ身を乗り出した。

「あはは、確かにカイジさんはろくでなしかも」
「そうだよ」
「だったらさ」

唇が、重なった。オレの少しかさつく唇と、名前のやわらかい唇が触れ合う。体温が上がったのがわかった。

どれくらい時間がたっただろう。ゆっくりと彼女の唇が離れていく。

オレは熱い顔と少し上がっている息に羞恥を感じながら、彼女の方を見た。

「ろくでなし同士、ずっと一緒にいようよ」

ああ、それは。柔らかくて優しそうな言葉とは裏腹な、まるで決定事項のようなものだった。

「オレとずっと一緒にいてくれるのか?」
「うん」
「オレはお前とずっと一緒にいていいのか?」
「いいよ」

また名前が無邪気に笑った。
オレは嬉しさで込み上げてくる涙を隠すように、目の前の細い身体を抱きしめた。

愛してる。

オレはただ、繰り返した。

情けなくも、結局涙を流しながら。



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