Dream

□あなたと、ずっと一緒に
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私が手嶋くんに嫉妬しているって言ったら、一はどうするんだろう。

小さい時から一緒にいて、私はずっとずっと一のことが大好きで、中学生になったら一の方から恋人になってほしいと告白されて、嬉しくてたまらなくて付き合うようになったけれど。

それでも口数が少ない彼のことを知ることは、私には限度があった。

それがどうだろう。突然私の目の前に現れた手嶋純太という男は、あっという間に私の横からするりと一をさらっていった。

手嶋くんが羨ましい、こわい、そして憎らしい。どろどろとした黒いものが私の胸の中で大きく渦巻く。

自転車にだって、負けていると思っている。
けれど、これは、こんなもの敗北以上のなんだと言うのか。
私は、手嶋純太に、負けたのだ。


廊下で苗字を呼ばれて振り返ると、そこには手嶋くんがいた。あまりに陽気なそれになんとも言えず手をぎゅっと握りしめて誤魔化して、笑顔を作った。

「おっす」
「おはよう、手嶋くん」
「青八木、ちょっと遅れるってさ」
「そっか、ありがとう」
「いいって、気にすんな」

手嶋くんは私と一の関係を応援しているらしく、こういったことを報告してくれたりする。
私は自転車競技部からは距離を取っているので、ありがたいと言えばありがたいのだが、離れたいと思ってる理由の一番が自分自身だとは気付いているのか、いないのか。

笑いながら、私の隣を平然と歩く手嶋くんに戸惑いを感じていた。

「青八木ってさ」
「うん」
「中学の頃とかどんな感じだったんだ?」
「え、」

突然の質問に言葉が出なくなってしまった。
どうしよう、どうしよう、これってどう答えればいいの。

色々な感情がぐちゃぐちゃで、どう返せばいいのか私にはもうわからなかった。

「私には…今と変わらないように見えるよ」

他人から見たらどうかは、わからないけれど。
そう言葉を続けて、私はわざと困った顔をした。浅はかだと思いながらも、誤魔化そうとしたのだ。

「そっか!教えてくれてありがとな」
「ううん」

教室の前まで来ると、クラスメイトらしきの男子が窓から手を振りながら手嶋、と呼んだ。
おーっす、と返しながら手嶋くんは声の方へ軽やかに駆けて行った。

私は、いつも手嶋くんに嘘をついている。
何を言っても、不正解に思えてしまう。最適解など見つからない、見つけられない。

こんな自分が、とても嫌だ。
でも、一を独占したいという私の思いは踏みにじられていいの?

そんなわけない、と心が叫ぶ。

立ち尽くして、動けなくなる。
どうしよう、泣きそうだ。泣くな、泣くな。泣いたって、どうにもならないだろう。

「名前」

名前を、呼ばれた。

さっきまで動かなかった身体がまるで嘘だったかのように、後ろへ振り返ることができた。

「おはよう」
「…はじ、め」
「…なにかあったのか?」
「え?」
「その…泣きそう、だから」
「!」

いつだってそうだ。私になにかあった時、一番に気付いてくれるのは一だった。
愛しさが、胸をあたたかくする。

「一が来てくれたから…もう平気」

ありがとう、と私が笑うと、一もどこか安心した様子で笑ってくれた。

「行こう、一」
「ああ」

同じ教室へ一緒に歩き出す。


やっぱり、言えないよ。だって私は弱虫だから。

でも、今、この瞬間。
一緒にいられることを、大事にしたいと思ったんだ。



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