Dream
□あしたてんきになあれ
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「お前は本当にかわいくないな」
「え、知ってるけど」
何を今更、とペットボトルのミネラルウォーターを飲む。
水は好きだ。味はしないのに手軽に水分補給できる。
「なっ…このオレさまが貶したんだぞ!?ショックじゃないのか!?」
「いや、だって事実だし…」
クラスにかわいい子なんていくらでもいるし、テレビのリモコンの電源ボタンを押せばそこには幾多の美少女美女だらけ。自分が平々凡々な容姿であることはすぐに自覚した。
「お前はっ…本当に…このっ…」
「何故貶した側が怒っているのか」
くうぅ、なんていかにも悔しいです、というような唸り声を上げながらナルシストルーは両手の拳を握りしめていた。
…どういう感情?
「そういうナルシストルーは本当に綺麗な顔をしてるよね」
指を伸ばして、するりと透明感のある白い肌を撫でた。
初めて会った時につけていた妙な黒の…仮面?が無く、より一層その美しさがあらわになっていた。
「まあオレさまだから当然だな」
ナルシストルーは足と手を同時に組むと、ふふん、と得意気に鼻を鳴らした。
耳がほんのり赤くなっていることは言わないでおこう。
「…というか、お前はオレさまと会う度水を飲んでいるな」
「…そうかな?」
「オレさまが言うんだからそうだ」
「まあ水分補給は大切だし」
「…前から思っていたが」
「うん?」
「お前、あまり食に興味が無いのか?」
「あー…」
面倒なことになった、と思ったのが正直な気持ちだ。
人間には三大欲求がある。その中には食欲が含まれており、普通は食に対して執着があるものなのだろう。
私には、それがない。
「そうかも」
「まるで他人事だな」
「だねぇ」
そう呟いたあと、私は残り少なくなった水を飲み干した。
「じゃ、帰るね」
「オレさまは帰っていいとは言っていない」
「えぇ…何それ」
「…明日も会えるなら、帰ってもいい」
それは疑問のようでもあり、そして強制的なものでもあり。私は観念して、笑った。
「うん、じゃあ、また明日」
「!」
「明日はナルシストルーのためにお菓子くらいは持ってくるから」
ひらりと手を振って、私は彼に背を向けた。
スマホを出して、人気のお菓子を調べながら、私は静かに帰路に着いた。