Dream

□贖いの罪状
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「今更贖罪のつもりなの?」

目の前の少年が、目を見開いた。瞳孔まで開いたそれに普通の人間ならこわくて逃げ出しくなるのだろうが、それでも私は問いかけるのをやめない。
ただ、優しく問いかける。まるで真綿で首を絞めるように。

彼らしくないと思ったが、どうやら黙り込んで考えているようだった。
…自分らしくない、そんなの自分自身が一番わかっているか。それでも、言葉が出てこないのだろう。
何を言えば正解で、何を言ったら不正解なんだろうね。
それでも私はかまわず、再び口を開く。

「出久がそんなこと求めてると思う?」

夕陽が私を背から照らす。眩しかったのか、彼は双眸を細める。
弧を描く私の唇に腹が立ったのか、大きく舌打ちをして、彼はようやく口を開いた。

「んなこと俺にわかるかよ」
「そうだよね、わかるわけないよね」
「…言いたいことがあるならさっさと言えや」
「そう?じゃあ遠慮なく」

一歩、また一歩と彼の方へ近づく。

両手を伸ばして、私はまるで慈しむように彼の両頬を撫でた。

「本当に勝己はどこまでもエゴイストだね」
「黙れ」
「いやだ、黙らない」

とん、と自分の身体をゆるやかに倒した。
彼の高い体温が、自分の低い体温と混じり合うような気がした。
ぎゅ、と聞こえそうなほど強く抱きしめる。
彼から抱き寄せることなんてないのに、それでも私は、いつでも彼の胸元へ飛び込むのだ。

「それでも私は、勝己が大好きだよ」

嘘偽りの無い言葉。
嘘偽りが無いからこそ、彼はこの言葉にひどく戸惑って、それにひどく腹が立つんだろう。
再び、舌打ちが聞こえた。

それでも私のそばから離れていかないのは、愛しいと思う気持ちが消えないから?
燃え盛る業火に、身体も心も焼かれるようなの?

「うるせぇ、馬鹿が」

その言葉ににこりと屈託なく笑った私に、彼は目を細めた。
気持ち悪い女だと思われているのは、何となく察している。
けれど、それを隠そうとは思わない。
彼はもうそれ以上何も言わず、ただ私からの抱擁を受け入れていた。

ああ、もう、絶対に逃がしてなんてあげない。

利己的で、どこまでも自分勝手で、けれど少しずつ変わろうとしているあなた。

愛しい、愛しい、あなた。




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