Dream

□願い事、或いは道連れ
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嫌な考えが頭から抜けない。どうにかしたくて夜風に当たろうとふらふらと縁側へ向かうと、見慣れた後ろ姿。
声をかけようか迷う間に、私の足音に気づいた彼が振り向いた。

「まだ寝てなかったのか」
「うん…何だか眠れなくて」
「そうか」
「………」

何を話したら良いか分からなくて黙り込むと、ぽんぽん、と自分の横を叩く紅丸に目を見開いた。
隣へ来い、という意味なのは分かったが、戸惑う。

「来い」
「…うん」

おずおず、と歩を進めて隣へ腰掛けた。組んでいた手が私の手に伸びてきて、ぎゅうっと握られた。どき、として思わず身体が強ばる。

「冷てぇ」
「…ごめん」

ゆっくりと握り返すと、また強く握られた。
彼の体温がひどく近くて…妙に胸騒ぎがした。

「紅丸は…こんな時間まで何してたの」
「ああ、紺炉の包帯を変えてた」
「………」

どきり、と心臓が軋んだ。どくどくと徐々に嫌な早鐘をうつ。
今、それを…言われる、のか。
いや、紅丸は事実を言っただけなのだけれど。

…嫌な思いが頭から離れないのは、二人のことだった。
紅丸は…私と紺炉さんを選べと言われたら、紺炉さんを選ぶだろう。
身を呈して自分を守った人間を、見捨てられるはずもない。

それが分かっているのに、それでも妬ましいと思ってしまう自分が大嫌いだ。

あの二人には、切れるはずもない強固な繋がりがある。
その中に、私は入れない。

「紅丸…」
「何だ?」
「………」

自分から口を開いた癖に、言い淀んでしまった。
思わずうつむく。喉が渇いて気持ち悪い。

「…どうした」
「………」
「言わなきゃわからねぇぞ」

顔を上げた。視界の紅丸が薄くぼやけている。そこで初めて、自分が涙目になっていることに気付いた。
驚いている彼の様子にもかまえないほどに、言葉が込み上げてきた。

「…いかない、で」
「あ?」
「どこにも…いかないで」

目の前の身体に縋るようにしがみついた。

どこにもいかないで、ずっと私のそばにいて、私の隣で生きていて。

声をつまらせながら言葉をつむいだ。
紅丸の腕が背中に伸びて、きつく抱き寄せられた。あたたかい胸元で嗚咽をあげながら泣き崩れる。

自分の耳に、紅丸の唇がかするように優しく触れた。

「どこにもいかねぇよ」
「べに、まる」
「俺がどこかへいく時は、お前も連れていく」

決まってるだろ。
いつもより優しい声色にまた熱いものが身体の奥底から込み上げてきた。
うん、うん、と小さな子供のように頷くことしか出来なかった。

どこでもいい。貴方といけるのなら、どこだって。

どうか…ずっと、あなたのそばに。

地獄の底でもいい、連れていって。



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