Dream

□Look at me
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「いかないで、勝己」

駆け寄って広い背中に抱きついた。シャツ越しでもわかる鍛えられた体躯にどきりとしたが、腕に力を込めてより密着する。
私があげた柑橘系の制汗スプレーの香りがほのかにして、ああ、勝己の匂いだと思った。

「部屋に帰るだけだろうが」
「………」
「嫌でも明日も会う」
「………」

はあ、と勝己が大きく溜め息をついたのが聞こえた。
私の腕をいとも簡単にほどいたあと、そのまま振り返って抱き寄せられた。
勝己の高い温度が愛しくて、じわじわと胸が高鳴る。

「なんかあったんか」
「………」
「言わねぇとわかんねぇだろうが」
「…うん」

声が震えているのが自分でもわかった。
でも、もう言わずにはいられないんだ。

「…見ないで」
「あ?」
「…出久のことばっかり、見ないで」
「…お前、」
「私のことを見て」

爆豪勝己と緑谷出久の幼馴染として生きてきた。
二人のことは、よくわかっているつもりだ。
勝己は、私が好きだと告げたら恋人としてそばに置いてくれた。

そんなふたりのまとう空気が変わった。すぐ気付いた。

勝己に出久と何かあったのかと聞いた。何も言ってくれなかった。
出久に勝己と何かあったのかと聞いた。ちょっと喧嘩した、と眉を八の字にして笑うだけ。
私が知らないとでも思ってるのだろうか?
出久が嘘をつくとき、頬をかくことを。

私には、勝己しかいないのに。

勝己はいつまでたっても、出久を見てる。
悔しくて、寂しくて、悲しくて、涙がこみ上げてきた。
頼りない私の口から、嗚咽がもれ出す。

「泣いてんじゃねぇよ」
「ご、め…」

何もかもぐちゃぐちゃだ。気持ちも顔ももうどろどろだ。
私は…どうすれば、いいの?

「いいか、一度しか言わねぇ」
「う、ん」
「俺は…お前のことだけが好きだ」
「かつ、き…」
「だからもうメソメソ泣くんじゃねぇ」

先程より強く抱きしめられた。大好きな勝己の手が、私の頭をぎこちなく撫でる。それだけのことなのに嬉しくてたまらなくて、目を細めた。

「か、つき」
「んだよ」
「愛して、る」
「…知っとるわ、アホ」

窓から差し込む焼けた夕空だけが、私達を淡く照らしていた。



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