Dream

□パライバトルマリンの瞳
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「別れたいとか、考えてんのか」

大きなごみ袋を漁りながら鳴が呟いた。万が一手を怪我したりしたら危ないからやめてと何度も言ったのに、頑なに聞いてはくれなかった。
私も手を止めることなく鳴へ問い返す。

「何でそう思うの?」
「こんなことされてんだから普通の女子ならそうかなって」
「うーん、私は普通の女の子ではないからなぁ」
「…あっそ」

か弱くもないし、かわいくもないし、愛らしくもない。
靴を捨てられても、泣いたりしてない。

「これか?」
「どれどれ?」

鳴の手元を見ると確かにローファーがあった。サイズが人より小さめなので、間違いなく私のものだ。

「ありがとう。ひとりで探してたら見つからなかったかも」
「ふふん、もっと俺へ礼を述べよ」
「ありがとうございます、神様仏様鳴様〜」

手渡されたローファーを引っくり返すと中から沢山のごみが溢れ出た。ここまで入っているとは…底無しの悪意に逆に感心してしまうな。
中から画鋲も出てきたが、ごみ箱へ捨てた犯人とはまた別の人間だろう。何も知らず靴へ足を入れた私が怪我するようにしたかったのだろうに…悪意が空回りしている。

空っぽになったローファーを何度かはたき、足を入れる。つま先をトントンと地面で叩くときちんとフィットした。
見つかってよかった、新しいものを買わなくてすんだ。

「鳴、コンビニ行こうよ〜喉乾いちゃった」
「………」
「お礼にアイスとかジュースとか奢るし」
「………」
「鳴?」

黙りこくった鳴を不思議に思って見上げる。
夕暮れに焼ける彼の姿に思わず目を細めた。

「ムカつく!!!」
「び、びっくりした…」
「お前が俺の女だって分かっててやってるのが余計に腹立つ!」
「ど…どうどう」
「なんで俺が怒ってんだよ!お前も怒れよ!」
「ごめん…?」
「あー!もう!」

思い切り身体を引き寄せられて抱きしめられた。鳴の筋肉質な腕が私を強く包み込む。とくとくと淡い心臓の音が聞こえてくる。

「俺にはさ、お前を独り占めする権利があるんだよ」

いつもの俺様発言にはあ、と気の抜けた返事をする。恐る恐る彼の背中に私も腕を回した。かたくて広い背中に安心する。

「お前の幸せも不幸も嬉しいも悲しいも全部俺のもんなの」
「うん」
「だから」

鳴の唇が私の耳を掠める。は、と静かにひと呼吸おく彼の吐息が鮮明に聞こえた。

「お前には、俺を独り占めする権利があるんだからな」

目を見開いた。思いもよらなかった言葉に息を呑む。

「お前は俺のもんだよ」
「う、ん」
「だけど、俺もお前のもんだよ」
「!」
「だからもっと胸をはれよ、俺の女だって」

どこか縋るような鳴の言葉に胸がひどく揺さぶられた。喉元がじんわりと熱くなっていく。

「うん…ありがとう」
「分かればいいんだよ」

あたたかな胸に顔を埋めた。大好きな鳴の手がぎこちないながらも私の頭をゆっくりと撫でてくれる。愛しい気持ちが溢れ出す。

「大好き、鳴」

目を閉じて静かに呟いた。
知ってる、と私に囁いた彼の言葉には確かに愛があった。



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