Dream

□極彩色に溺れて死ね
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安いベッドの上で目を覚ました。
猫のようにぐうっと伸びをして、かたまった身体をほぐす。
涙の跡を残したまま、隣で眠っているカイジさんの頬をするりと撫でた。無防備な寝顔に胸がきゅうと甘く疼く。

彼の横から静かに抜け出すと、立ち上るカイジさんの香り。大好きな匂いに顔を綻ばせながら、そこら辺に放っていたTシャツを掴んで頭からかぶる。
軋む床に気をつけながら、机の上の残り少ないミネラルウォーターを飲み干した。軽くなったペットボトル片手に窓を静かに開けた。
月明かりに仄明るく照らされて気持ちいい。ゆっくりと窓辺に寄りかかる。

もう、何もかもやめちゃえば。
いつも何かを背負っている背中に向かって言いそうになるけれど、言おうか言わまいか悩んでるうちにぐちゃぐちゃになってやめる。その繰り返し。

一緒にいて欲しい、のかもしれない。でも、私は今のカイジさんが好きだ。
今のカイジさんじゃ無くなるようなことはしたくないなと思う。口出しして嫌われたらこわい。
こういうのって、エゴになるのかな?
今まで死にものぐるいで生きてきたから恋愛のことはあんまり良く分からない。セックスも私が上だし、多分他の皆と私達は違っている。
でもカイジさんのことは大好きだし、愛してるし、大切にしたいなって思う。
それじゃあ、駄目なのかしら。

「…何やってんだ」

声の方へ振り向いた。身体をふらふらと持ち上げながら出された掠れた声が色っぽい。散々泣かせて鳴かせたからなあ、緩みそうになる顔にペットボトルを押し付けて誤魔化す。

「月光浴。気持ちいいよ」
「またそんな薄着で…」
「じゃあカイジさんがあっためて」

彼に向かって甘えるように両腕を伸ばす。
のそのそと歩きながら私の所まできたカイジさんは、照れながらも胸に抱き寄せてくれた。

「あったかい」
「まあ…生きてるからな」
「そうだねぇ」

私の身体に規則正しく伝わる心音が心地いい。
未来のことって良く分からない。毎日毎日、その日だけを命からがら生きていたから。
でもこの腕の中にいる時だけは、ぼんやりと考えることができた。
私はカイジさんのことがこの先も…しわくちゃのおばあちゃんになっても大好きな気がした。

「カイジさん」
「何だ?」
「ずっと一緒にいてほしい、です」

かさつく唇にそっとキスをした。突然茹で上がった蛸のようにカイジさんが顔を赤くさせたので驚いた。
…やっぱりまずかった、のかな。

「それは…プロポーズ…か?」

斜め上過ぎる返答に声を上げて笑ってしまった。何で笑うんだよ、と真っ赤な顔のまま怒るカイジさんがかわいくて愛しくて、もう一度キスをした。

プロポーズの時は綺麗な指輪があるに決まってるでしょう。馬鹿だなあ、カイジさんは。

…そういう所が、どうしようもなく好きなのだけれど。



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