Dream

□ジタンブルー
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灰皿に立て掛けてある一本のジタン・カポラルから立ち上る薄い紫煙が、窓から風が吹き込む度に薫る。
薄汚れた電飾が輝くロアナプラの夜は少し肌寒いけれど、それがとても心地好い。
ベッドに横たわって聞く銃声や怒号交じりの喧騒に慣れきった自分が、怖い。
それをおかしいと思わなくなった自分が、もっと怖い。

煙草はどうしたって吸えない。

一度だけ好奇心等の不純な気持ちから、ねだって張さんの煙草を吸わせてもらったことがあったけれど、激しく咳き込んだ後に残ったのは苦味と喉にへばりつくような違和感だけだった。
張さんは無理して吸わなくてもいい、といつもより優しく笑った。背伸びをしようとしていたのはお見通しだったようで、ひどく恥ずかしかった。
でも、だって。レヴィさんとか、バラライカさんとか、エダさんとか、ヨランダさんとか。身近にいる煙草を吸う女性達はあまりにもかっこいいんだもの。

煙草の香りは嫌いじゃない。
父が吸っていたせいもあるだろうし、そもそも、ロアナプラに流れる陰鬱な日常は煙草の匂いがするのだ。
ジタンの香りが何処かから漂えば、嗚呼、張さんの匂いだなと思う程に。

ジリ、とフィルターが燃える音に焦燥を掻き立てられる。

張さんの側にいても恥ずかしくない女性に、なりたい。

焦る気持ちだけが先走って何もかも上手くいかない。悔しくて、悲しくて、苦しい。

滲む涙に抗いたくて、眠気に誘われるままゆっくりと微睡みに落ちた。

この匂いに包まれたまま死ねる日が来ることを、私は、望む。



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