Dream

□それは、つまり
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「……わぁ」

静まり返った空間に私の声が響いてすぐに消え去った
見つめる先には腕に出来た大きなアザが一つ

いつの間にこんな大きなアザできたんだろ
もしかして一角さんと稽古してた時かなぁ、一角さん容赦ないから


制服の袖から覗いたアザを見つめてそんな事をぼんやりと考えていると
私の目の前の人物は一層不機嫌そうな顔をした


「そんな怖い顔しちゃイヤですよ、朽木先生」

私がカラカラと喉を鳴らして笑うと
先生は無言でアザを強く押した
ちょ、地味に痛いです先生


「…一体兄はいつになったら私の言うことを聞く」

この間前のアザが消えたばかりだろう、と続けた保健室の朽木先生の顔は心底不愉快そうだった
これレアだよ絶対

珍しい朽木先生を見てニヤニヤしていると、聞いているのかと睨まれてしまった

「兄には何を言っても無駄だな」

「えへへ、恐れ入ります」


更木先生に憧れて、男所帯の剣道部に入部してから絶えずできるようになった怪我やアザ
その度に保健室に行くものだから私は常連客になっちゃってた

今日もいつも通り朽木先生の不機嫌そうな顔を拝んで、腕に包帯を巻いてもらう



「全く貴様からも何か言ったらどうなんだ、更木」


朽木先生の言葉に、勢いよくドアの方を見た
入り口には更木先生

これまた更木先生も不愉快極まりない顔で中に入ってきて
私の手を引っ張って立たせた


「貴様は仮にも顧問だろ」

「……うるせぇ、行くぞ名前」

「え、はい、朽木先生ありがとうございました」


グイグイと引っ張られていき、保健室を出て廊下、そして武道場にたどり着いた

部活はすでに終わっていて、ガランとした場内
いつも一角さんの怒声とか副隊長の笑い声が飛び交ってるから何だか静かな感じが気持ち悪かった


「先生?」

「…何でテメェはいつも笑ってんだよ
怪我して痛てぇならそこら辺の女みたくビービー泣けばいいじゃねぇか」


強く握られた手がより一層強く握られた


「せ「悪い」………」


それはそれは驚いた
だって先生が謝るんだもん
私には背中を向けたままだけど、ポツリと呟かれた言葉

私の怪我を案じてくれているのがよく伝わってきて
何だかとても先生が可愛く映った


「ふふっ先生可愛い」


先生の前に回り込むとバツが悪そうな顔をした先生と目が合った


「先生は悪く無いですよ、私が好んで受けた傷だもん
先生と一緒にいられるなら全然痛くない」


厚くて硬い胸板に身体を預けると上から降ってきた温かい体温が唇に伝わった


「えへへ、先生大好き」

「うるせぇ、言うな」

「だーい好きです、先生」

「言うなっつってんだろうが」


そしてまた優しいキスが落とされる


何度も繰り返されるそれに
腕の痛みなんてとっくの前に消え去った


それは、つまり

(愛の力のおかげ……なんてね)



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