Dream

□月が綺麗ですね
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ふわふわと香るシャンプーの匂いが鼻をかすめる。水分が染み込んだタオルから香るそれは一日の終盤を知らせているようでほっとするような、寂しいような。ともすれば私の中の複雑怪奇な感情を優しく呼び覚ます。毛先から滴る水分をすくうようにタオルをすべらせながら居間に足を踏み入れるとそこには私に背を向けたまま何か大きな本のようなものを読んでいる喜助さんがいた。私に気付いたのか、喜助さんはゆっくりと振り向くといつものようなへらりとした笑みをこぼした。

「あ、お帰りなさいっス」
「ただいま。喜助さん、何見てるんですか?」
「ああ、これっスか」

私の前に差し出された物の表紙には筆記体でアルバムと書かれてあった。少し埃をかぶっているようで色がくすんでいる。ああ、懐かしい。そんな言葉が喉の奥で飽和して消えた。

「これ、尸魂界にいた時の…」
「はい、何だか無性に見たくなりまして」

アルバムを手に取ると今より少し若い喜助さんと目があった。隣にいるまだあどけなさが残る私は少し頬を染めながらはにかんでいる。ゆるり、頬が緩む。その私の様子を見た喜助さんも優しく微笑んでいた。

「懐かしいっスねえ」
「はい、とっても…」

私は目を細めながらゆっくりとした手つきでページをめくる。このまま吸い込まれてしまいそうな気がした私は切ないような、だけど心地好いような感覚に一瞬戸惑う。あの頃に戻りたいような、戻りたくないような。なんだがひどくもどかしくてはがゆい。

「見てくださいよこれ、林檎飴を二つも持ってるっスよ」

喜助さんが少し意地の悪い笑みを浮かべながら一つの写真を指差す。指の先をたどるとそこには真っ赤な林檎飴を両手に持ちうれしそうに破顔している私がいた。いつの間にこんな写真を撮っていたのだろう。頬がかあっと熱くなった。

「ひ、久々のお祭りだったから浮かれてたんですよ、きっと」
「ま、そういうことにしておきますかねぇ」

どこから出したのか喜助さんはいつもの扇子で口許を隠した。こういう時は大抵扇子の下の口は笑っている。意地悪店主め、と私が悪態をつくと喜助さんは怒らないでくださいよ、とからから笑った。そうだねえ喜助さん、優しいキスをしてくれるなら許さないこともないよ。

ふふ、なあんてね。



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