水塊に溺れる

□機械仕掛けの願望
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月曜日、放課後。それは私と及川くんにとって、特別な意味を持つ日だ。

「名前ちゃん!かえろ〜!」

わんわん、という鳴き声が聞こえてきそうなほどまっすぐに私の方へ走ってくる及川くん。
うーん、さしずめ血統書つきのゴールデンレトリバー。大型で気品があるのに元気いっぱい。

「少し待ってね」
「待つ待つ!いつまでも待つよ!」
「声、大きい」
「あ、ごめん」

てへ、と言いながら舌をペロリと出した及川くんはそれさえも様になっていた。
…神様って不公平だ。こんな綺麗な顔を持っている及川くんのような人間もいれば、平々凡々の容姿である私のような人間もいるんだから。

「…よし、おまたせ。行こうか」
「うん!」

…だから、声が大きいよ。


「このあとどこか行く?」
「うーん…」

口ごもる及川くんがめずらしくて首を傾げた。何か言いたそうな様子なので、彼の言葉を待つ。

「あの、ね」
「うん?」
「名前ちゃんの…お部屋に、行きたい」
「えっ」

神妙な面持ちの及川くんに告げられた。足を止めてその横顔を見つめる。
うーん、横顔も綺麗だなあ。

「名前ちゃんのお部屋で一緒に課題したい」
「ええ…そりゃまた突然だね」
「突然じゃないよ、俺は毎日思ってる」

毎日思ってるんかい。思わず心の中でツッコんだ。

「本と原稿用紙とパソコンくらいしかないけど…いいの?」
「いいよ!むしろ何故駄目なのか教えてほしい!」
「そ、そっか」

及川くんの迫力に気圧される。
及川くんって本当に変わってるなあ…。
いや、私を好きになる時点で変な人ではあるんだけど。

「じゃあ…家くる?」
「いきます!」

今度は子供のようにぱあっと笑った及川くんは、年相応の男子高校生に見えた。

それがなんだか眩しくて…私は静かに目を細めた。




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