水塊に溺れる
□巡り会う星々
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「送信、と…」
岩泉くんへメッセージを送って、スマホを机の上に置いた。
"部活お疲れ様です"
"今日は話せて嬉しかったです"
"これからよろしくお願いします"
…という旨を送ったのだが、不備はない…はず。
男の子と話すのは、メッセージアプリであっても緊張する。
いや、人と話すことには今でも緊張する、の間違いか。
いつだって、変に思われていないか怖いんだ。
…嫌なことを考えてしまった。忘れよう。
パソコンで調べ物を再開すると、スマホが規則的に震えた。このパターンはメッセージアプリでの着信を知らせるものだ。
画面を見ると、そこには及川徹、と表示されていた。
…部活、終わったのかな?
「もしもし」
「…もしもし、名前ちゃん?」
「うん。部活お疲れ様」
「ありがと…じゃなくて!俺に言うことない?!」
「言うこと…?」
「そう、及川さんに言うこと」
「…今日も綺麗な顔だったね?」
「なっ…」
シーン、と向こう側が静かになる。
切れたのか?と思って耳にあてていた画面を確認したが、しっかりと繋がっている。
再び耳元にあてて口を開いた。
「もしもし?」
「っ〜…天然たらし…」
「天然…なに?」
「なんでもないよっ」
「う、うん」
「それより!岩ちゃんと!連絡先!交換!したでしょ!」
「うん、したよ」
「どうして俺に言ってくれないの?!」
「えっ…言ったほうがよかった?」
「言って!」
「う、うん…わかったよ」
声量に圧倒されて否応なく頷いた。
そこではた、と思い出した。眉間に皺を寄せて足を組む。
「及川くん」
「と!お!る!」
「あー…徹くん」
「えへ、なあに、名前ちゃん」
「私達が付き合ってること言いふらしてないよね?」
「え"っ…」
「…やっぱり」
頭を抱えて溜息をついた。長くて深い溜息に自分でも驚いたが、隠すことはしなかった。
「誰に言ったの?」
「…部活のチームメイト」
「もう言いふらさないでね、恥ずかしいから」
「ええ〜」
「ええ、じゃない」
「でも…」
「返事は?」
「…はい、ごめんなさい」
「よし、素直な徹くんは素敵だね」
…なんかこの台詞、前も言った気がするな。
「部活疲れたでしょ?もう切るね」
「ま、待って!」
「ん?」
「…また、明日ね」
「うん、また明日ね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
通話終了のボタンを押して、再びスマホを机の上に置いた。
…電話して気づいたけど、及川くんって優しい声してるよなあ。
読み聞かせとか向いてそう。
うーん、と腕をあげて伸びをした。血液が循環していくような感覚が気持ちいい。
ふう、と息をついた。
さて、今度こそ調べ物再開しますか。