フラジール

□その愛を永遠に見つめる
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「おはようございます」

聞きなれた、声。
私を安堵させる、けれど静かに狂わせる、それ。
隣に立った彼を静かに見上げた。

「おはよう」
「なにをしていたんですか?」
「…岸神くんと出会った時のことを思い出してたの」
「この木の下で初めて会いましたもんね」
「…覚えてるんだ」
「もちろん」

ふわふわ、にこにこ。
そう笑いながら私の横に自然立つ彼に、私はどうしようもなく心を動かされるのだ。

「岸神くんとこんな風になるなんて…思わなかった」
「ボクはいつかこうなると思ってましたよ」
「え?」
「運命だったんですよ、ボク達は」

手をそっと握られた。
…ああ、そうか。私達は、こうなる運命だったのか。
私がどれだけ抗おうとも、拒もうとも、もう決まっていたことだったんだ。
白い手を握り返した。岸神くんのぬるい体温を感じた。
ぬるいのにひどく火傷しそうだなんて、私はおかしいのだろう。

「岸神くん、」
「小鞠」
「…?」
「名前で呼んでくれませんか」
「!」

目を見開いた。突然のことに胸がどくりと音をたてた。
緊張からか、口内が急速に渇いた。
なんとか声帯を震わせて、たどたどしく唇を開く。

「小鞠…くん」
「はい」
「小鞠くん」
「はい、名前さん」

愛しさが込み上げて唇を噛んだ。
繋いだ手を握り返して、ラピスラズリのような美しい双眸を見つめる。

彼が愛を込めた優しい瞳で私を包んだ。

それだけで私は、生きていける気がした。

「愛してる、小鞠」
「愛しています、名前さん」

私達の物語は、続いていく。


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