フラジール
□消えるように眠りたい
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窓に大きな雨粒が強く打ち付けられ、ひどい風によってがたがたと揺れる。
注意報だか警報だかが出たとかで、先生達は慌てて会議室へと向かった。
必然的に授業は自習時間へと変わる。帰宅命令に胸を躍らせるクラスメイト達の喧騒に包まれながら、問題集の上でシャープペンを動かす。
遠雷の音に思わず顔を上げた。ちらちらと見えた稲光を見つめる。
「嵐がきそうですね」
耳元で囁かれて勢いよく振り向く。隣で薄く笑う、岸神くんの姿。
驚きのあまり固まっていたが、授業の前に席替えをしたこと、岸神くんの隣の席になったことを思い出してほっと胸を撫で下ろす。
「そう、かもね」
嵐、か。昔からずっと…ずっと、願っていることがある。
大きな嵐がきて欲しい。何もかもめちゃくちゃにして、何もかも破壊して…汚いものは全て息絶える。
嵐の中に巻き込まれた汚い私は、穢れがすべて洗い流されてそのまま死ぬ事が出来るような気がしているのだ。
こんな馬鹿げたこと、誰にも言えやしないけれど。
「嵐がきたらボク達は死んでしまうんでしょうか」
また、だ。私の考えを見透かしていそうな岸神くんの言葉。
何よりも、それに慣れてきてしまった自分が一番怖かった。
「岸神くんは生き残るよ」
「どうしてですか?」
「この世は美しいものが生き残るように出来ているから」
大きな雷鳴が轟いた。きゃあ、という女の子たちの悲鳴が響き渡る。
駄目だ。こんなものじゃない、もっと狂おしいほど激しいものじゃないといけないんだ。
ぎゅうっと手に力を込める。
破滅願望に似たそれは、じわりと私を侵食していった。