フラジール

□うすい足音
1ページ/1ページ


「私に触っちゃだめだよ」

ほうきを動かしながら、背後にいる岸神くんに声をかけた。何かを躊躇した彼の気配を感じながらも、手は止めない。

「何故ですか?」
「岸神くんが穢れちゃうから」

あ はあ、と突然笑い出した岸神くんにたまげて勢いよく振り返る。
独特の笑い方をする岸神くんを呆然と見つめた。
くっくっく、と喉を鳴らして笑う様も、この男はいやに美しかった。

「苗字さんは…本当に愛らしいですね」
「………」
「おや、不服そうな顔」
「…そんなことより手を動かして、掃除終わらないよ」

彼は愉快そうに笑いながらも、まだ薄い字が残る黒板を再び消し始めた。

カラスの鳴き声につられるように窓の外を見上げる。

笑われても別に構わない。私はそう、思ってるのだから。

自分の中の半分の血は穢れている。もう半分の綺麗な血を侵食しているような気がして怖い。

日に日に穢れていっているのではないかと思って怖い。

怖いことだらけなんだ。本当はもう、嫌なんだ。

夜が迫る夕焼けへ手を伸ばした。

このまま飛んでいけたらいいのにな。


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ