フラジール

□ずいぶん長い間眠っていたみたい
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桜並木に映える澄んだ青色の髪。今にも透けてしまいそうな色白な肌。すらりと伸びた背筋。今にも折れてしまいそうに見える、儚い体躯。

あまりの美しさに、ぼうっと見蕩れる。

少女なのかと目を細めると、男子の制服を着ていたことに気付いた。
ああ、少年だったのかと少し不思議に思った。

ただ、綺麗な人だと…素直にそう思った。

すうっと蠢いた彼の両目が私を捉えた。じいっと何かを探るかのような眼差し。
目を逸らせなくて見つめ返す。

数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。

けれど、私達は惹かれるかのように見つめ合った。

瞬間、一際強い風が吹いた。桜の花弁を舞いあげるそれにきつく目を閉じる。
ゆっくりと瞼を開くと、もう彼はいなくなっていた。

「…人間ってあんなに綺麗なのもいるんだ」

否、もしかしたら神様とか妖精の類だったかもしれないけれど。

人間だったのなら、存外まだ捨てたものではないな。


それが運命の邂逅だったことを、私は知る由もなかった。


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