□Blood Milk Chocolate
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高級感溢れる黒い皮のソファーにて、すらりと伸びた細い手足を無防備に投げ出して横たわる女が一人。黒いフリルキャミソールに灰色の短パン、と真夏に相応しい服装だが、健全な肉欲を持つ俺には些か刺激が強い。

普段なら遠慮無く覆い被さってこの据え膳を貪るのだが、今はそうもいかないのだ。何故なら今ソファーで転がっている彼女は、


「った…!うー…っ」

「……大丈夫か?」

「あは…月一だけど慣れないね」


絶賛、月に一度の女の試練中なのだ。

ただでさえ白い顔を更に白く、寧ろ青白くしながら痛みに耐えて力無く笑ってみせる臨美に、行為を強要して更には吸血行為を働こうなんて思えない。ていうかそんな事をしてみろ。間違いなくこの儚い女が苦しむ。

幾ら人外、吸血鬼の端くれとは言え、惚れた女を気遣う配慮くらいはある。だから痛みに苦しむ臨美の下腹部を優しく撫でたり、時折話し掛けて気を紛らわせてやったりしていたのだが。


(……やべえな)


生理中の臨美は何つーか、こう、いつもより美味そうに見えた。甘い匂いが強くなっていて、傍に居るだけで吸血の為に使う八重歯が勝手に伸びる。多分、気を抜いたらその白い首筋に噛み付きかねない。

それでも傍から離れられないのは、


「うー…うー…しずちゃ…」

「どした?」

「お腹、いたいの…」


余程痛いのだろう。普段のツンツンした雰囲気はまるで無く、代わりに苺みたいに綺麗で赤い目をうるうるさせて、甘ったるい表情と声を俺に向けてくる臨美。

こんな可愛い可愛い可愛い女を置いて何処かに行ける奴が居たら出てこい。臨美を不埒な目で見るなとぶん殴ってやるから。

そんな俺の思考も露知らず、臨美は痛みに身動ぎながら小さく呻く。つーかキャミソールの肩紐がずれて、小ぶりで慎ましやかながらも非常にぷにぷにと柔らかくて感度の良い胸がもう少し、で、


「シズちゃんっ」

「おう、何だ!」

「……?あのね、ちょっと冷蔵庫からチョコレート取ってきてくれる?」

「チョコレートな、分かった!」


動揺し過ぎて無駄に大きな声で受け答えする俺を臨美は怪訝そうに見上げてたが、そんな目線から逃れるようにキッチンに潜り込む。序でにトイレにも行きたいけれど、それは臨美の願いを叶えてからにしよう。

冷蔵庫を開けて直ぐに見えたピンクの蓋のタッパーを取り出し、中で所狭しと詰まっている丸いチョコレートを一粒摘まむ。何でもこのチョコレートは臨美のお気に入りで、常にこうしてストックがあるのだ。


「臨美、ほらチョコ」

「ありがとー…」


傍らに戻ってその紅い唇に運んでやれば、ふにゃりと笑って俺の指先からチョコレートを咥える臨美。ああ可愛い。今すぐ服を破り捨てて覆い被さって、きっと反抗してくる細い身体を押さえ付けて噛み付きたい。


(…終わったら覚悟しとけよ、なあ?)


そんな俺の危険思考に気付かない臨美は、ご満悦といった表情を浮かべて甘い甘いチョコレートを口の中で転がしていた。


ああ、早く俺も甘いものが欲しい。


END.

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