ん
□俺としずっくま。
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二週間ぶりに仕事場兼自宅に帰ったら、
「よ、邪魔してるぜ」
くま耳を付けたバーテンが居ました。
♂♀
俺の名は折原臨也。
新宿を拠点に情報屋をやっている。
最初は人間好きが高じて始めた仕事だったんだけど、気が付いたら人間を愛でる余裕さえ無い程に忙しくなっていた。
情報屋なんて仕事の取引相手にまともな職の奴なんて殆どいないから、迂闊に休暇だって取れない。下手をしたら情報を持ち逃げしたと疑われて、海に沈められるかもしれないから。
それでも俺だって気分転換はしたい。でも休暇はなかなか取れない。そうして退屈で疲れる日々を送り続けながら仕事で二週間ほど自宅を開けていたら、
「…………」
冒頭の状況に出くわした。
今まで様々な場面に遭遇してきたが、こんなに衝撃を受けるのは久しぶりだ。ていうか何でコイツ、我が物顔で俺のベットでごろごろ寛いでんのかな。ていうか何でバーテン服着てんのかな、しかも俺よりでかくないか。
そんな事を寝室の入り口で突っ立ったまま考えていたら、くま耳バーテンの彼はむくりと起き上がって近付いてきた。あ、やっぱり俺より身長高いや。180くらいあるかな。
「手前、折原臨也で間違いねえよな?」
「え?ああ…うん」
「そうか、よしよし」
こくんと頷けば、何故か頭を撫でられた。ぽふぽふと俺の頭を撫でる手は大きくて温かくて、気恥かしいけど悪い気はしない。というか未だに状況が飲み込めてないから抵抗する気も起きない。
「…あの、君は?」
「ああ、俺は平和島静雄だ」
くま耳なのに大層な名前を名乗った彼は、俺の頭から手を離して再びベットに寝転ぶ。そんな彼に何て返せば良いか分からなくて固まっていたら、彼はちょいちょいと手招きをした。
「何してんだ?来いよ」
「……え」
「良いから来い、臨也」
「!?」
名前を呼ばれたと思ったら、ふらりと足が動く。勝手に前へと進む足に驚きすぎて反応出来ずにいると、俺は彼に腕を引かれて胸中に抱え込まれてしまった。
「な、なな、なに!?」
「詳しい事は後で説明してやる。とにかく今は寝ろ、疲れてんだろ?ひでえ面してんぞ」
上から聞こえてくる落ち着いた低音とぽかぽかと温かい体温。それと労る様に俺の背中を優しく撫でてくる手が、あっという間に眠気を誘ってくる。こんな怪しい奴に抱き締められて眠るなんてどうかと思うが、俺の疲労と眠気はとっくに限界だった。
「おやすみ、臨也」
……うん、おやすみ。
♂♀
翌日、俺が起きたのは太陽が空の天辺に居る頃だった。こんなにぐっすり眠ったのは何時ぶりだろうか、と上半身だけ起こしてベッドの上でぼんやり考える。
コートは部屋の入り口傍のフックに掛かっていて、携帯はサイドボードに置いてある。メール着信を知らせるランプが点滅していたが、何故か焦りもしなかったし見る気もならなかった。
「お、やっと起きたか」
「!!」
ドアを開けて入ってきたバーテンに一瞬ビクッとしたが、直ぐに昨日の出来事がフラッシュバックした。固まっている俺を余所に彼はベッドの縁に腰掛けて、俺の顔を見ながら「ちっとはマシな面になったな」と笑う。
「あ、あのさ」
「俺は退屈で疲れた日常を送ってる奴の元に生まれるんだ。自分で言うのも恥ずいけど、妖精みてえなもんだよ」
俺の言葉を遮って彼はそう言った。
思わず彼の方を見れば、彼は「まあ信じらんねえかもしんねえけど」と苦笑する。しかし普段の俺なら馬鹿にしただろうけど、今の俺は何故かその話で納得できた。
というか、彼が妖精だろうとくま耳バーテンコスの変態だろうとどうでも良かった。害は無さそうだし、何より単調で多忙で退屈だった俺の日々に降って湧いた非日常だ。
「シズちゃん」
「は?」
「君の愛称だよ、静雄だからシズちゃん」
にっこり笑ってそう言えば、シズちゃんはくま耳をぴくぴくさせて「それは可愛過ぎやしねえか…?」と頬を赤らめた。でも反論しないところを見ると、この愛称を使っても良さそうだ。
俺は布団に埋もれたままだった片手を出すと、シズちゃんに向かって差し出した。
「宜しくね、シズちゃん」
こうして俺は、
不思議な同居人を受け入れたのだった。
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癒しが欲しくて
カッとなって始めました。
まったりラブラブさせていきたいです。